坂本龍一が見つめた1980年代──写真展「PHOTO RYUICHI SAKAMOTO」で出会う、音楽家のもうひとつの視線

Event Date:2026.10.17-11.08
Oct 19, 2026
音楽家・坂本龍一(1952–2023)が1980年代に撮影した写真を紹介する展覧会「PHOTO RYUICHI SAKAMOTO」が、東京・渋谷のアートスペース「SAI」で、2026年10月17日から11月8日まで開催されています。

photo ©FASHION HEADLINE
音楽家として世界を舞台に活動していた当時、坂本はカメラを手に、旅先で目にした風景や、日常のなかで出会った人々、何気ない光景を記録していました。今回展示されているのは、そうした彼自身の視線によって切り取られた写真の数々です。

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展覧会をキュレーションしたのは、編集者であり、アートプロデューサーとしても活動する後藤繁雄。坂本龍一エステートの協力のもと、音楽作品とは異なるかたちで残された坂本の表現に光を当てています。



世界的な音楽家が、日常に向けていたカメラ

1980年代の坂本龍一は、イエロー・マジック・オーケストラ(YMO)の活動をはじめ、ソロ作品や映画音楽などを通じて、国内外でその表現領域を広げていた時期にありました。しかし、今回の写真展で目にするのは、必ずしも音楽家としての華やかな活動を記録した写真ばかりではありません。

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旅先で出会った風景、人々の何気ない姿、日常の一場面。会場に並ぶ写真には、特別な出来事を記録すること以上に、そのとき目の前にあったものへ自然にカメラを向ける、親密な視線が感じられます。

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展示のなかには、猫を捉えた写真も見られます。著名な人物や特別な場所だけではなく、身近な存在にもレンズを向けていたことがうかがえます。

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写真を撮ることが坂本にとってどのような意味を持っていたのか、その答えを作品から断定することはできません。ただ、音楽という表現から少し離れたところで、彼が何に目を留め、どのような瞬間を残そうとしていたのか。写真は、そうした問いを私たちに投げかけます。



坂本龍一が実際に使用した、5台のポラロイドカメラ

今回の展覧会では、写真作品とともに、坂本龍一が実際に使用していたポラロイドカメラ5台が特別展示されています。会場で確認できたのは、「One600」「SX-70 LAND CAMERA」「LAND CAMERA 360」「EE33」「Spirit 600」の5機種です。

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なかでも、1970年代に登場した折りたたみ式の「SX-70 LAND CAMERA」や、さらに古い世代に属する「LAND CAMERA 360」は、ポラロイドの歴史を伝える機材としても興味深い存在です。

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また、箱型のボディに独立したファインダーを備える「EE33」は、その独特な造形が印象的です。レンズ周辺に配された目盛りや操作部からは、現在のインスタントカメラとは異なる、当時のプロダクトデザインをうかがうことができます。

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これらの機材は、坂本龍一という表現者が実際に手にしていた道具であると同時に、異なる時代の写真技術や工業デザインを伝えるものでもあります。ポラロイドは、撮影したその場で写真が現れるインスタント写真の代表的なメディアです。撮影から像の出現までがひとつの体験として結びつき、一枚ごとに独特の色彩や質感、偶然性を伴います。1970〜80年代には、アンディ・ウォーホルやヘルムート・ニュートン、サイ・トゥオンブリーらもポラロイドを表現の手段として用いていました。

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坂本もまた、このメディアを通じて、旅先の風景や人々、日常に差し込む光を写し取っていました。会場に並ぶ5台のカメラを前にすると、写真という完成されたイメージだけでなく、坂本がカメラを構え、シャッターを切っていたという行為そのものにも思いが向かいます。



一枚の写真が持つ、時間と偶然性

ポラロイド写真の特徴のひとつは、ネガを介さず、その場で一枚の像が生まれることです。デジタル写真のように撮影直後の画像を確認し、何度も撮り直すことが当たり前ではなかった時代。撮影した瞬間の光や状況が、独特の色彩や質感とともに写真へと定着していきます。

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その一回性は、写真を単なる記録以上のものにしています。同じ場所、同じ人物を撮影したとしても、その瞬間の光や動き、撮影者との距離によって、まったく異なる一枚が生まれるからです。今回の展示では、坂本が1980年代に見つめていた世界を、そうした写真の質感とともに受け取ることができます。

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音楽は時間のなかで展開していく表現であり、写真はその一瞬をとどめる表現です。両者を直接結びつけることはできませんが、異なるメディアを通じて残された坂本龍一の創作の痕跡を見つめることは、彼の表現世界を考えるもうひとつの入口になるのではないでしょうか。



120色の表紙を持つ写真集──写真を編集し、手に取るという体験

展覧会の開催に合わせ、写真集『PHOTO RYUICHI SAKAMOTO』がSAI会場で先行発売されています。写真集は、坂本龍一が1980年代に撮影した写真を「ポラロイド篇」と「スナップショット篇」の2冊に収録したもの。企画・編集を後藤繁雄と空里香、デザインを林修三が担当し、リトルモアから刊行されました。

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注目したいのは、その装丁です。2冊を収める特製ケースには、竹尾のファインペーパー「NTラシャ」の120種類の色紙をランダムに組み合わせて使用。写真集ごとに異なる色彩の組み合わせが生まれる仕様となっています。

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一枚ごとに異なる表情を持つポラロイド写真と、色の組み合わせによって個性が生まれる写真集の装丁。両者のあいだには、偶然性や一回性という点で、興味深い共通項を見いだすことができます。

写真を展示空間で見ることと、編集された一冊の本として手に取ること。同じ写真であっても、鑑賞の方法によって異なる体験が生まれます。今回の写真集は、坂本龍一が残した視覚的な記録を、写真の選択や配列、紙、色彩、造本といった編集・デザインの視点からも捉え直す機会となっています。



音楽とは異なるかたちで残された、坂本龍一の時間

世界的な音楽家として数多くの作品を残した坂本龍一。その一方で、彼はカメラを手に、自分の周囲にある風景や人々、何気ない日常を見つめていました。今回の写真展で紹介される作品は、音楽家としての業績を説明するための資料というだけではありません。一枚一枚の写真には、1980年代という時代のなかで、坂本龍一というひとりの人間が目にした世界が残されています。

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そして、本人が使用していた5台のポラロイドカメラは、その視線が実際に写真へと変わる過程を想像させてくれます。音楽を聴くことで知る坂本龍一とは、少し異なる距離感。写真という静かなメディアを通じて、彼が過ごした時間に触れることのできる展覧会です。



INFORMATION
坂本龍一 写真展「PHOTO RYUICHI SAKAMOTO」

会期:2026年10月17日(土)〜11月8日(日)
時間:11:00〜20:00(会期中無休)
会場:SAI(サイ)
住所:東京都渋谷区神宮前6-20-10 RAYARD MIYASHITA PARK South 3F
入場料:無料
キュレーション:後藤繁雄
協力:坂本龍一エステート
協賛:Polaroid
公式サイト:https://www.saiart.jp/exhibition/exhibition41/


写真集『PHOTO RYUICHI SAKAMOTO』
仕様:B5判・上製・2冊組(ケース入り)
ページ数:96ページ+104ページ
企画・編集:後藤繁雄+空里香
デザイン:林修三
発行:リトルモア
価格:9,680円(税込)





The Editorial Team
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