ISSEY MIYAKE 2027年春夏──身体と布の「あいだ」に、服は生まれる

Oct 5, 2026
人が布をまとう。その瞬間、身体と布は触れ合いながらも、完全にひとつになるわけではありません。そのあいだには空気が入り、身体が動けば布も動き、そこにあった空間もまた姿を変えていきます。ISSEY MIYAKEが2027年春夏コレクションで見つめたのは、そんな目には見えない「あいだ」です。

© ISSEY MIYAKE INC.
コレクションのタイトルは「Figure of Ma ―間のかたち―」。10月2日、パリのフランス柔道連盟本部柔道場(Dojo de Paris)で発表されました。始まりは、一枚の大きな布と戯れること。デザイナーの近藤悟史とデザインチームは、「衣服」という概念よりも前に立ち返るように、身体と布が触れ合うことで生まれる原初的な「間」を探っていきました。そこから見出されたのは、何もない空間ではなく、身体と服の双方を自由にする豊かな領域でした。



「間」は、何もない場所ではない

身体と衣服のあいだに生まれる「間」は、決まった形を持ちません。歩けば布が揺れ、踊れば弾む。空気を含めば膨らみ、身体に寄り添えば曲線を描く。着る人の動きによって、その形は絶えず変化します。コレクション冒頭に掲げられた言葉にも、空気をたっぷりと含んだ布が「深く呼吸し始める」ような姿が描かれています。

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その考えを象徴するひとつが「BALLOON TWIST」です。一枚の大きな布が波打ちながら空気を含む姿から着想し、丸い膨らみによって身体と衣服のあいだに意図的に「間」をつくる。球体を生地の中に入れ、手作業で縛ってツイスト加工を施すことで、空気をまとったような立体的なフォルムが生まれています。 

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「BILLOW」では、一枚の布で仕立てたボリュームのあるパンツが身体の動きによって大きくうねり、「TEMPO PLEATS」では、一枚の四角い布に開けた穴へ身体を通すことで、平面だった布が空気を含みながら自然な立体へと変化します。

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服の形を先に決め、そこへ身体を収めるのではない。身体が入ること、動くこと、そして空気を含むことによって、初めて現れる形があるのです。



身体とともに「呼吸する」服

今シーズンを象徴するシリーズ「BALLOONING」は、その関係をさらに鮮明にします。風船が膨らみ、身体を包み込む姿から着想した服は、前後の身頃に長さの差をつけることで、着る人が動くたびに空気を取り込みます。膨らんだり、揺れたり、また身体へ近づいたり。その姿は、まるで服そのものが着る人と一緒に呼吸しているようです。 

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水の流れを表現した無縫製ニット「FLUIGLYPH」もまた、固定されたシルエットではなく身体との関係から形を生み出します。異なる太さの糸、不規則なガーター編み、透け感と凹凸。身体になじみながら伸びることで、有機的な曲線が現れていきます。

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「BUBBLE(INK MARBLING)」では、シャボン玉を思わせる透明感と光沢を備えたフィルムオーガンジーに、京都の職人が墨流しの技法で一つひとつ異なる柄を描きます。空へ上昇する風船をイメージした柄と、空気を含んで変化する服の形。そこにも、同じ姿にとどまらないことの豊かさがあります。

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身体と素材の境界まで曖昧にする「COCOON BODY」

一方、「間」を身体と衣服の距離としてだけではなく、その境界そのものから問い直すのが「COCOON BODY」です。

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ISSEY MIYAKEとワコールが共同制作したこのシリーズでは、ワコールがブラジャーのパッド成形などに用いてきた独自技術「Melooop」を応用。メルトブロー法を基にした立体成形技術を衣服へと発展させ、ロボットアームに胴体の型を取り付けることで、新たな造形方法を探っています。蚕が繭を紡ぐように、溶かした樹脂を吹き付けてつくられるその形は、衣服でありながら身体のようでもあります。

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ここで興味深いのは、テクノロジーによって人の手を消そうとしているのではないことです。原型をつくる過程では、衣服を着せて濡らしたトルソーに残された表情や、つくり手の微妙な感覚までを3Dスキャンし、型へと移していきます。身体と布、手仕事とテクノロジー。その境界もまた、固定された線ではなくなっていきます。



音楽と服づくり、その「あいだ」に生まれるもの

今回の「間」は、身体と布だけに存在するものでもありません。近藤氏とデザインチームは、ピアニストの中野公揮を迎え、「豊かさ」をめぐって作曲と服づくりが呼応する対話を重ねました。

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服をつくることと、音をつくること。視覚と聴覚。異なる二つの創作を並べるのではなく、一方から生まれた感覚がもう一方を刺激し、また返っていく。その往復によって、音楽と衣服はより密接な表現へと結びついていきます。

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ショーでは、振付家・ダンサーのテス・ヴォルカー(Tess Voelker)が振り付けと演出を担当。モデルやパフォーマーが動くことで、服は膨らみ、揺れ、弾みます。ここでは、服だけを切り離して見ても「Figure of Ma」の全貌は現れません。身体があり、布があり、空気があり、動きがあり、音がある。その「あいだ」に生まれる関係そのものが、コレクションを形づくっています。



形をつくるのではなく、「間のかたち」を受け入れる

「間」という言葉から、静けさや余白を思い浮かべるかもしれません。けれど、ISSEY MIYAKEが2027年春夏で見せる「間」は、もっと動的です。

膨らみ、縮み、揺れ、弾み、呼吸する。身体が動くたびに変わり続け、同じ形にはとどまらない。

だからこそ、服の完成形もひとつではありません。

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一枚の布から始まり、身体と出会い、そのあいだに空気を迎え入れることで、初めて服が動き出す。そして着る人が歩き、踊り、日々を過ごすたびに、新しい形が生まれていく。「Figure of Ma ―間のかたち―」とは、目に見えない「間」に形を与えることではなく、身体と布のあいだに生まれ続ける、ひとつに定まらない形を受け入れることなのかもしれません。

そこには、服を完成された造形物としてではなく、着る人とともに変化し続けるものとして考えてきたISSEY MIYAKEの、軽やかで自由な2027年春夏があります。





The Editorial Team
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