バレンシアガ第55回クチュールコレクション ──「変化は内側から生まれる」、ピエールパオロ・ピッチョーリの新たな出発

Jul 15, 2026
バレンシアガBALENCIAGA)は、第55回クチュールコレクションを発表しました。クリエイティブ・ディレクター、ピエールパオロ・ピッチョーリが初めて手がけるバレンシアガのクチュールです。

Courtesy of Balenciaga

今回、ピッチョーリが見つめ直したのは、メゾンの歴史的なシルエットや象徴的なアーカイブだけではありませんでした。彼が問い直したのは、クチュールメゾンとしてのバレンシアガを成り立たせてきた理念、その根原理、そしてクチュールというメティエそのものです。

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コレクションノートに記された「変化は内側から生まれます」という言葉は、今季を読み解くための中心的な一文です。新しい表現は、外側を装飾することから始まるのではない。身体を包む内部構造、素材の性質、カッティングやドレープ、そしてアトリエで働く人々の手から生まれる。ピッチョーリが提示したのは、クチュールを見た目ではなく、その内側から再構築する姿勢でした。



クチュールを“情報”として捉える

今回のコレクションノートでは、クチュールが「ひとつの情報」として語られています。ここでいう情報とは、単なるデータや技術的な知識ではありません。メゾンの行動や判断を方向づけ、創造のあり方そのものを形づくるものです。クチュールは実験と技術探求の場であり、同時に、現代という時代とバレンシアガのアイデンティティを映し出すプリズムでもあります。

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ピッチョーリは、クチュールを特別な顧客のためだけに存在する孤立した領域として扱ってはいません。むしろ、メゾン全体の思想やものづくりを育てる中核として、あらためて位置づけています。クチュールとは、完成された夢を見せるためのものではなく、次の可能性を探るための思考装置でもあるのです。



変化は、服の内部構造から始まる

今季を象徴するのが、カシミアを用いたテーラードコートドレスです。制作は、着用する一人ひとりの身体を3Dデジタルスキャンすることから始まります。そこで得られた身体の形だけでなく、その人固有の佇まいやアティチュードまでを捉え、内側に用いるレザー構造へと成形。建築的なフォルムを実現しながら、驚くほどの軽やかさを生み出しています。

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服の外側に構造を誇示するのではなく、内側に強さを潜ませる。装飾もまた、裾やラペルの内側へと配置されます。厳格に見える外観の裏に、豊かな表情が広がっている。その二面性は、クリストバル・バレンシアガの作品に内在していた、禁欲的な厳格さと表現の豊かさを思わせます。

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今回の「変化」とは、過去を否定して新しい外見を与えることではありません。服を支える見えない部分から、その存在全体を変えていくことなのです。



ネオ・ガザールとAMSilk──伝統は素材から進化する

バレンシアガは、長年にわたって素材の革新を追求してきたメゾンでもあります。今回、新たにクチュールへ導入されたのが、先進的なバイオエンジニアリングによって開発されたシルク代替素材「AMSilk」です。DNA編集と研究室でのタンパク質工学を通して生まれたこの再生可能素材は、化石燃料を使用せず、クモの糸に似た繊維構造と高い強度を備えています。

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一方、クリストバル・バレンシアガが生み出したガザールを再解釈した「ネオ・ガザール」も登場します。この素材は表面を形づくるためだけでなく、衣服の内部構造にも用いられました。軽やかでありながら構築性を持つという相反する性質が、服全体の輪郭を内側から決定づけています。

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ここで伝統は、保存される対象ではありません。かつての素材や技術に込められた発想を理解し、現代の科学や身体感覚を通して進化させること。ピッチョーリは、クリストバルの遺産を外見として引用するのではなく、革新を続けたその姿勢を継承しようとしています。



黒い影が、フォルムだけを浮かび上がらせる

一部のアウトフィットは、コレクションの中で反復して登場します。最初は色彩や素材の表情を伴って現れ、二度目には黒一色となり、影のような姿へと還元される。それによって見る者の視線はいったんリセットされ、シルエットや構造そのものがより明確に浮かび上がります。

Courtesy of Balenciaga

装飾や色を取り去ったあとに何が残るのか。そこに現れるのは、身体を起点に構築されたフォルムです。

Courtesy of Balenciaga

バレンシアガのクチュールは、正面から見た一枚のイメージだけでは完結しません。横から、後ろから、そして動きの中で見ることによって初めて、その立体性や構造が理解できます。360度あらゆる角度から存在する、真の彫刻としての服。その探求が、今回のコレクションにも受け継がれています。



歴史を再現せず、その思想に共鳴する

ピッチョーリは、歴史は過去に属するものであり、そのまま再現することはできないと考えています。だからこそ今回のコレクションは、クリストバル・バレンシアガの代表作を模倣することには向かいません。彼が生涯を通して問い続けた身体とフォルム、そしてガーメントの関係へと立ち返ります。



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テーラリングとフルーをひとつのルックの中で融合させ、構築性と流動性、厳格さと軽やかさを共存させる。二つの高貴な伝統を結びつけることで、バレンシアガの本質に宿る二面性を現代へと引き寄せています。

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継承とは、過去の形を繰り返すことではありません。過去を生んだ信念に共鳴し、自らの時代の技術と感覚によって、再び問いを立てることなのです。



クチュールをつくるのは、アトリエで生きる人々

ピッチョーリ自身のメッセージには、今回のコレクションが「さまざまな想いの結晶」であると記されています。制作を進めながら、互いを知り、理解し、新しい言葉と時代を超えて継承されてきた言葉によって、ひとつの共通言語を築いていった。

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そして彼は、こう語ります。

「このコレクションは、アトリエで働く人々によって生まれました。彼らこそがクチュールそのものなのです。なぜなら、クチュールはそれを生きる人々によってつくられるからです」

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今回のバレンシアガ クチュールの主役は、新たに就任したクリエイティブ・ディレクターだけではありません。型紙を引く人。生地を裁つ人。ドレープをつくる人。刺繍を施す人。素材を研究し、構造を試し、ひとつの服が完成するまで時間を注ぐ人々。クチュールは抽象的な理念ではなく、人の手と時間、愛情、献身によって初めて現実のものになります。



これが、今のバレンシアガ クチュール

ピエールパオロ・ピッチョーリによる第55回クチュールコレクションは、劇的な変化を外側へ宣言するものではありませんでした。むしろ、服の内部構造、素材の革新、身体との関係、そしてアトリエの共同作業を通して、メゾンを内側から組み直す試みです。

「これは私たちのコレクションです。これは私たちの仕事です。これが、今のバレンシアガ クチュールです」

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その言葉が示しているのは、ひとりのデザイナーによる新時代の始まりではありません。クリストバル・バレンシアガの思想と、現在のアトリエで働く人々の技術、そしてピッチョーリの信念が出会うことで生まれた、新たな共同体としてのクチュールです。

変化は、外から与えられるものではない。バレンシアガ第55回クチュールは、それが内側から生まれることを、服そのものによって示していました。



お問い合わせ先:
バレンシアガ クライアントサービス
TEL:0120-992-136

The Editorial Team
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