原美術館でフランスの女性現代美術作家・ソフィ カルの個展を開催、19年前の展覧会をフルスケールで再現

開催日:2019.01.05-03.28
2018.12.06
原美術館で19年前に開催し大きな反響を呼んだ、世界的に注目されるフランスの女性現代美術作家・ソフィ カル(Sophie Calle)の個展「限局性激痛」を、フルスケールで展示する再現展『「ソフィ カル―限局性激痛」 原美術館コレクションより』を、2019年1月5日から3月28日まで、原美術館にて開催する。

Sophie Calle Exquisite Pain, 1984-2003 
© Sophie Calle / ADAGP, Paris 2018 and JASPAR, Tokyo, 2018

同展は日の美術館におけるカルの初個展として開催され、会期終了後、全出品作品がコレクションに加えられた。「限局性激痛」とは、医学用語で身体部位を襲う限局性(狭い範囲)の鋭い痛みや苦しみを意味し、カル自身の失恋体験による痛みとその治癒を、写真と文章で作品化したもの。人生最悪の日までの出来事を、最愛の人への手紙や写真で綴った第一部と、不幸話を他人に語り、代わりに相手の最も辛い経験を聞くことで自身の心の傷を少しずつ癒していく様子を美しい写真と刺繍で綴った第二部で構成されている。

Photo : Jean-Baptiste Mondino
見知らぬ人々を自宅へ招き、自分のベッドで眠る様子を撮影したものにインタビューを加えた「眠る人々」(1979年)や、ヴェネツィアのホテルでメイドをしながら、宿泊客の部屋の様子を撮影した「ホテル」(1981年)、拾ったアドレス帳に載っていた人物にその持ち主についてのインタビューを行い、日刊紙リベラシオンに連載した「アドレス帳」(1983年)など、常に論争を巻き起こしている彼女の作品。90年代の「本当の話」や「ヴェネツィア組曲」などの初期の代表作を制作する一方で、「盲目の人々」(1986年)から始まった盲人に焦点を当てたシリーズにおいて、美術の根幹に関わる視覚・認識についての深い考察を行っている。

また、カルの生き方に感銘を受けたポール オースター(Paul Auster)が、彼女を小説「リヴァイアサン」の登場人物マリア ターナーのモデルとしたことをきっかけに、逆にカルがターナーを演じた作品「ダブル・ゲーム」(1998年)を発表するなど、その活動は現代美術の枠組みを超えて広く注目を集めている。

「ソフィ カル―限局性激痛」1999-2000年 原美術館での展示
© Sophie Calle / ADAGP, Paris 2018 and JASPAR, Tokyo, 2018

日本滞在が契機となって誕生した作品「限局性激痛」は、日本で最初に発表したいという作家の希望を受けて1999年の原美術館での展覧会のためにまず日本語版が制作され、その後フランス語や英語版も世界各国で発表された。フランス語版は、ポンピドゥー国立近代美術館での大個展(2003 - 2004年)に出品された後、同館コレクションに加わった。

「限局性激痛」第二部で特徴的なのは、テキストが全て刺繍でつづられている点。「見本と寸分違わず刺繍できる凄腕の職人がフランスにいる」という作家の情報を受けて、当初、日本語のテキストをフランスで手刺繍してもらう予定だったが、新潟にある刺繍工場の方と偶然にも幸福な出会いがあり、まずは膨大な量の日本語版の機械刺繍が完成した。生地は作家こだわりの麻布をベルギーから取り寄せ、作家も出来栄えに大いに満足。その結果、フランス語版と英語版も新潟で制作。ソフィ作品の命ともいえるテキストは、コピーライターの竹内桃子が、原文にあるニュアンスを取り込みながら日本語版テキストを完成させた。

「ソフィ カル―限局性激痛」1999-2000年 原美術館での展示
© Sophie Calle / ADAGP, Paris 2018 and JASPAR, Tokyo, 2018

また15年間封印されていた思い出の品々、例えば行動を記録した手書きのメモ、地図、ポラロイドやコンタクトプリント、(中国の)紙幣、そしてあってはいけない某ホテルの鍵など、全てひとまとめにしまわれていた第一部で被写体となった品々は、作品制作を決めた作家がこれを開封し、メモや記憶をたよりに必要に応じてその地を再訪するなどして、数年をかけてこのシリーズ作品が完成。第二部で、自らの最もつらい体験をカルの失恋体験と交換した相手の中には、哲学者やアーティストもおり、同館にて2012年に個展を開催したフランスの現代美術作家、ジャン=ミシェル オトニエル(Jean-Michel Othoniel)も実はその一人だ。

会期中の2月1日には、原美術館のザ・ホールにて、アーティスト・トーク(作家来日予定)が開催。詳細は決まり次第、原美術館ウェブサイトにて掲載。日曜日と祝日には、学芸員によるギャラリーガイドを実施。ザ・ミュージアムショップでは、フランス語版『Douleur Exquise』を、ショップ限定の和訳テキストを付録として販売する。また、緑ゆたかな庭に展示された作品を眺めながら、季節感あふれる菓子や食事、ドリンクを楽しめる館内のカフェ ダールでは、開催中の展覧会にあわせた「イメージケーキ」(755円)を提供する。

会期中、都内2箇所でもソフィ カルの個展を同時開催。2019年2月2日から3月5日にギャラリー小柳にて「ソフィ カル «Parce Que »(なぜなら)」が、2月2日から3月11日にはペロタン東京にて「ソフィ カル «Ma mère, mon chat, mon père, dans cet ordre. »(私の母、私の、私の父、この順に。)」が開催され、作家も来日する予定。
自身の人生をさらけ出し、他人の人生に向き合うカルの制作に触れてみては。

【展覧会情報】
「ソフィ カル―限局性激痛」 原美術館コレクションより
会期:2019年1月5日〜3月28日
会場:原美術館
住所:東京都品川区北品川4-7-25
休館日:月曜日(1月14日、2月11日は開館)、1月15日、2月12日
時間:11:00〜17:00(水曜日は20:00まで、入館は閉館時刻の30分前まで)
料金:一般1,100円、大高生700円、小中生500円
※原美術館メンバーは無料、学期中の土曜日は小中高生の入館無料、20名以上の団体は1人100円引
編集部
  • 「ソフィ カル―限局性激痛」1999-2000年 原美術館での展示
  • 「ソフィ カル―限局性激痛」1999-2000年 原美術館での展示
  • 「ソフィ カル―限局性激痛」1999-2000年 原美術館での展示
  • ソフィ カル(Sophie Calle)
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