アーネスト・ヘミングウェイがもし今生きていたら--山下裕文×小暮昌弘1/2【INTERVIEW】

2015.10.24

原宿ストリートカルチャーにおいて、もはや“伝説”といえるショップ「プロペラ」で、バイヤー・プレスを務めた男・山下裕文。彼が2010年に立ち上げたブランド・モヒート(MOJITO)が、10月30日から11月15日の期間、名古屋のラシックにてポップアップイベント「Inter View 02」に参加する。これに先駆け、『メンズクラブ(MEN'S CLUB)』の元編集長・小暮昌弘を聞き手に、ブランドについて熱く語る。

小暮昌弘(以下、小暮):モヒート(MOJITO)を始めたのはいつからですか?

山下裕文(以下、山下):2010年からです。ずっと自分の意志で洋服が作れるブランドをやりたいという思いはあったのです。やはり「MOJITO」の商標を検索したことがきっかけだと思います。ブランドを作る上で必要な衣類と衣類小物という分類で、「MOJITO」の商標が空いていることにたまたま気付き、特許庁に行って、「MOJITO」という商標を申請したんです。

小暮:自分のブランドをやろうと思った時に、モヒート(MOJITO)というブランドの名前がポッと浮かんだんですか?

山下:そうですね。もともとお酒の「モヒート」が好きで。アーネスト・ヘミングウェイにまつわるお酒の逸話はたくさんあるのですが、なかでも代表が、「ダイキリ」と「モヒート」。但し「モヒート」に関しては、実はヘミングウェイは実は飲んでいなかったという説もありますが…。

小暮:そもそも山下さんはヘミングウェイの服というか、彼自身に興味を持っていたのでは?

山下:ヘミングウェイは「アメリカンマッチョの象徴」といわれるくらいで、男性としてはほとんど全部の欲望を叶えた人だと僕は思うのです。まず、スポーツができて、酒が強くて、結婚も4度もして。

小暮:女好きだからね、彼(笑)。

山下:をたくさん書き、世界中をして、最後はノーベル文学賞まで受賞する。地位も、名誉も、欲求もすべて満たされた、タフガイの象徴だと。彼が着ていた服や身の廻りのものを自分のビジネスと絡めて見るようになったときに、「あぁ、やっぱりこの人は只者じゃないな」とずっと感じたのです。

小暮:山下さんと初めて会ったのは、モヒートをまだ始める前でしたよね。下町の呑み屋さんで(笑)。こんな服を作ろうと思っていると、大きなバッグからスエードのジャケットとショーツを出してきて。「今時こんな男っぽい服作る人、いるんだ」と思ったくらい。革のサファリジャケットを見たときに、ヘミングウェイの着ていた服そのまま作るんだと思っていたら、いざコレクションを見させてもらったら、そうじゃなかった。

山下:そうですね。

小暮:山下さん自身が、ヘミングウェイの写真、本、たくさんの資料を読み解いて、そこからインスパイアを受けて、自分なりに(ヘミングウェイらしい)服を作っているわけじゃないですか。(故)山口淳さんの書いた『ヘミングウェイの流儀』(今村楯夫共著 日本経済新聞社刊)。これはアーネスト・ヘミングウェイが着たものなどを一冊にまとめた本。ここに書かれているように、ヘミングウェイが着ていたものをそのままトレースするのなら簡単じゃないですか。例えば(彼が行きつけだった店)「アバークロンビー&フィッチ」風の服を作って、彼がよく巻いていたベルトをそのまま作って、みたいな発想だったら割と僕は簡単だと思います。例えばリーバイス(LEVI’S)の「501」が好きだったら、昔の「501」をそのまま作り直すことがデニム好きの頂点みたいなところがあったのを、山下さんはそうはしなかった。

山下:たぶんヘミングウェイをアイコンにしたブランドって、僕らが知る以上にたくさんあると思います。テーマとして、ヘミングウェイを扱うこともファッションブランドでは多いのでは。でも僕としては、ヘミングウェイはあくまで目標にすべきもの、憧れでもあります。いわば、神的な存在なわけです。ヘミングウェイが着ているものをまんまやるのであれば、「ウィルス&ガイガー」に行って、「これを同じものを作ってください」みたいにやるでしょう。それだったら僕がやる意味がない。ヘミングウェイがもし今生きていたら、どういう服を着るだろうか?そんなことを考えて服を作ってみたかったのです。

小暮:もしヘミングウェイが生きていたら、どんな服を今着るのでしょうか?

山下:この「アブサンシャツ」(長年モヒートで作り続けているシャツ品番)という開襟シャツ。おそらく彼はお金も名誉も手に入れた人だから、あまりネクタイをしめなくてもいい。スティーブ・ジョブズもそうですし、こういう人たちって、もう誰に気を使う必要もなくて、自由で開放的。でもどこか知的。それをイメージしてこの開襟シャツをデザインしました。「ヘミングウェイで最高の作品は自分自身」と言われる人物でしょ。彼と同じ服を作っても、もしかしたら彼にしか似合わないのでは。着せられているという感じになってしまう。だから小説のなかから気になるキーワードを拾い上げるかとか、住んでいた街だとか、家だとか、その周りの人をヒントに、それを服に落とし込み、あるいは空想して、時代性に合った服に仕上げる。それがモヒートの服をディレクションする醍醐味だと感じています。

小暮:例えばモヒートに「アルズコート」という名品があるでしょ。今季で、バージョンいくつ?今7作目くらいですか?

山下:16SSのコレクションで、10作目ですね。

小暮:もう10作目か(笑)。 モヒートは、そんな風に、何度も(同じ品番の服を)バージョンアップするわけですよね。男は定番好きといわれながらも、意外と世の中に定番って少ないじゃないですか。定番風のものはあってもね。しかも同じ品番を毎年ちょっとずつ進化させて行っているのがモヒートですね。

山下:産み出す側としては、全部を新しくするよりも、同じものを2回発表する方が、勇気がいりますね。例えば「アルズコート」など、展示会に出す前に自分で十分煮詰めて作り上げ、ほぼ変えようがないくらいのものを世に出しているつもりです。でもずっと買い続けてくれるエンドユーザー(お客さま)の方々には、常に進化の姿を見せないと。それで毎年新しい要素を加えてバージョンアップさせるのです。

小暮:同じ「アルズコート」でも、新作が出ると、またお客様は買ってくれるんですか?

山下:「アルズコート」は8枚とか9枚持っている人、いらっしゃいますね。「ガルフストリームパンツ」もそうです。

小暮:「ガルフストリームパンツ」、僕も2本買いました。

山下:11本とか持っている人も。「アブサンシャツ」だったら20数枚持っているとか。そういう方が普通にいらっしゃるんです。

小暮:なるほど。

山下:リーバイスの「501」は、世界で山のようにあるブランドの中で唯一、品番が品名になったアイテムです。僕らぐらいの歳になると、リーバイスを今まで10本履いたとか、毎年(同じ)ホワイトリーバイスを穿き替えるとかという人もけっこういらっしゃいます。そうなると僕らが「リーバイス」と同じことをやってもまず通用しないんです。だから「バージョンアップ」というテクニックが必要なんです。

小暮:モヒートは、いわば、スモールコレクションですよね。必要なものを必要なだけ作っているという感じを受けます。

山下:展示会にたくさんの品番を並べたり、同じような服をたくさん作り、バイヤーさんに「さぁどうぞ、選んでください」という見せ方よりも、僕は「これだけ選びました」という、ちょっと違うアプローチにしたいんです。僕がよく使う言葉ですけれど、「背骨をブラさない」。毎シーズン、コレクションが、何かガラッと変わるようなことは、僕好みではないんです。

小暮:展示会に出す前から、山下さん自身が吟味しているわけですね。削ぎ落としている。それって、もしかしたらハードボイルド。ヘミングウェイの生き方に通じますね。

山下:そうですね。そういう部分をヘミングウェイはすごく持っていた人ですし、モヒートもそうありたいんですね。

2/2に続く。-- 「洋服のルーツを、横に広げるんじゃなくて、下へ下へと、掘り下げていく」
小暮昌弘
  • アーネスト・ヘミングウェイがもし今生きていたら--山下裕文×小暮昌弘
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  • (故)山口淳さんの書いた『ヘミングウェイの流儀』(今村楯夫共著 日本経済新聞社刊)
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