キンフォーク編集長ネイサン・ウィリアムスvol.2/2―ライフスタイルを伝えるということ【INTERVIEW】

2013.06.28

vol.1より続く。

——そういうキンフォークの発想の原点は?

家に人を招いて料理でもてなすというのは、当は新しいことじゃないよね?祖父母の時代には普通にしていたことだけれど、それを今の時代に合う形で提示しているから今の僕達にとっては刺激的で新しいのだと思う。掲載したエッセイの中に「良き隣人になる方法」という一文があるけれど(笑)、これはもしかしたら、両親にいつも言われていた決まり文句かもしれない。でも親から諭されるのじゃなく、友人に提案されているような感じに思えるから、今の人達に受け入れられやすいんじゃないだろうか。

——雑誌自体の作りはとても手が込んでいますね。

読者にその世界観に入り込んでもらうためには、デザインのクオリティーはとても重要だよね。例えば、食事に関するエッセイが掲載されているとき、キャンドルとお皿、それにフォークがあって、ほのかな光があるというその場面を切り取って、提示し、読者にはその場を共有し、あたかもそこに自分がいるかのような気分を味わってもらいたい。そういう感覚が生まれるような作り、例えばページにあえて余白を作るということにも心を砕いている。

——アメリカポートランドという場所で制作しているということも、キンフォークのコンセプトと関係がありますか?

ポートランドは、今回一緒に来日したスタッフの言葉を借りれば、「変なところ」(笑)。元々は職人の街だったのが、アーティストが移り住むようになって、独自のアートカルチャーが発達している。自然も豊かで、皆自由に暮らしている。

実は、ポートランドで雑誌を作るというのは、例えば優秀なフォトグラファーを見つけるということ一つ取っても簡単なことではないんだ。でもニューヨークロンドンみたいな場所でないからこそ、違った感覚の雑誌が作れるのかもしれない。

——ファッション雑誌などからコラボレーションをしようとか、広告を掲載したいといった声が掛かることもあるとか?

今は、ファッションがライフスタイルと一緒に語られる時代だからね。それにインターネットでの見せ方など学ぶべきこともあるかと思っていたけれど。でもある時、ファッション雑誌の人達がオフィスに来て分かった。僕らもファッションは嫌いじゃないし、彼らの着こなしは素晴らしかったけれど、キンフォークにファッションページを作るのは僕らがやりたいこととは違う。ファッションのためということだけを考えると、一緒にできることはあまりなさそう、と感じたね。

同じように、キンフォークにとって食事は重要な要素だから、レシピ本を作らないかという話もよく持ちかけられる。でも、単なるレシピ本だけは作りたくなかった。僕らがやらなくても他に良い雑誌が既にたくさんあるからね。

キンフォークが提案するのは、きちんとテーブルセッティングをして飾り付けて、正装してっていうものではなくて、気の合う仲間達と気軽に皆で集まって食事をしたり時間をシェアしよう、っていうスタイル。

だから、10月に料理本を発行するけれど、その誌面の大部分ではキンフォークが共感する人々、屋さんとかデザイナーとかが自分の仕事を紹介しながら、自宅のキッチンを案内してくれて、最後に彼らの得意料理のレシピが載っているという体裁にする。他のレシピ本とは一線を画しているつもり。「料理本」だけど、あくまで主役はライフスタイルなんだ。

——デジタル版のキンフォークも誕生しますね。

雑誌ではエッセイなど長めのストーリーを掲載するのに対して、デジタル版は毎日更新され、暮らしのヒントやレシピといった実用的なもの、週末の過ごし方をテーマにした「Kinfolk Saturday」といったコンテンツを動画で紹介したいと思っている。キンフォークの中心読者層は20代後半だから、彼らにとってはインターネットの方がアクセスしやすいということもあるだろうし。

——ではご自身の週末の過ごし方は?

それが皮肉なもので(苦笑)、シンプルでバランスの取れたライフスタイルを提案しているくせに、キンフォークの人気が出てくるにつれて、どんどん忙しくなってしまって……。

実際、第9号では「仕事から離れた週末の過ごし方」なんて特集を組むのに、それを作る自分達が週末、編集作業をしていることに罪悪感を覚えてしまって。それで、絶対に週末に仕事をしないということに決めて、実行しているよ。

もう一つは、コミュニティーを育むというか、近所に住む友人と顔を合わせて話をするとか、何か手作りをするワークショップを開催したり。普段はそんなことをしているかな。

——最後に、日本の読者にメッセージを。

日本版ができたことで、これからのキンフォークの展開を考えてわくわくしている。最新号で日本を特集して、僕らから見た日本を提示したことでは、日本人にとっても日本を再発見することになるんじゃないかと思うし、僕達にとっても日本の文化はとても刺激的なので、日本によって僕らの視点が広がっていくと思う。楽しみにしていて。
飯塚りえ
  • 左より、米Kinfolkのダグ・ビショップ、日本版キンフォーク編集長の圓角航太、ネイサン・ウィリアムス米Kinfolk編集長
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