貴重原画から空間再現まで、55年の創作を体感する。 大規模展示会『―画業55周年記念― あだち充展』

Event Date:2025.12.19-2026.01.14
Dec 25, 2025
『みゆき』『タッチ』『ラフ』『H2』『クロスゲーム』『MIX』など、数々の名作を生み出してきた漫画家・あだち充。その画業55周年を記念した大規模展示会『―画業55周年記念― あだち充展』が、池袋・サンシャインシティ 展示ホールCにて開催されています。会期は2025年12月19日(金)から2026年1月14日(水)まで。

©あだち充/小学館
展は、単なる回顧展にとどまらず、日本漫画が培ってきた「線」「余白」「時間表現」を、空間全体で再構築する試みと言える内容となっています。足を踏み入れた瞬間から感じられるのは、賑やかさよりもむしろ、静かで張り詰めた集中力。55年という時間の蓄積が、展示空間に独特の緊張感をもたらしています。

photo by ©FASHION HEADLINE | ©あだち充/小学館

原画で辿る、あだち充の「線」の進化
会場では、初期作品『ナイン』から『陽あたり良好!』『みゆき』『タッチ』『ラフ』『H2』、そして近年の『クロスゲーム』『MIX』まで、代表作が一堂に集結。貴重な原画やラフスケッチを通して、あだち充の線がどのように洗練され、削ぎ落とされてきたのかを丁寧に追体験できます。

photo by ©FASHION HEADLINE | ©あだち充/小学館
一見シンプルに見える線の中に潜む、速度感、間(ま)、そして感情の余韻。セリフの少なさや余白の使い方が、物語を語る以上に雄弁であることを、原画は雄弁に物語ります。漫画表現を「読む」ものから「見る」ものへと引き上げてきた、その本質に改めて気づかされます。

photo by ©FASHION HEADLINE | ©あだち充/小学館


『タッチ』の記憶を呼び起こす、プレハブ再現
展示のハイライトの一つが、『タッチ』ゾーンに設けられた“思い出のプレハブ”再現です。物語の舞台となった空間を立体的に再構築することで、ページの中にあった記憶が現実のスケールで立ち上がります。

photo by ©FASHION HEADLINE | ©あだち充/小学館
ノスタルジーを煽る演出というよりも、漫画の「場」を身体感覚として呼び戻す装置。そこに立つことで、物語と読者の距離が自然と縮まり、あだち作品が持つ空気感の正体が静かに浮かび上がります。

photo by ©FASHION HEADLINE | ©あだち充/小学館


グッズとコラボレーションが示す、キャラクターの現在地
会場では、本展オリジナルグッズをはじめ、『New Era®(ニューエラ)』や『リカちゃん』とのコラボレーショングッズも展開。浅倉南や若松みゆきといったヒロインたちは、単なるキャラクターではなく、時代を超えて再解釈されるアイコンとしてデザインされています。

photo by ©FASHION HEADLINE | ©あだち充/小学館
さらに、『WHISKY MEW』による『タッチ』ラベル・ウイスキー先行販売など、55周年という節目ならではの試みも印象的です。キャラクターが消費される存在ではなく、文化的モチーフとして翻訳されている点に、本展の姿勢が表れています。


声が導く、もう一つの物語
音声ガイドには、声優・日髙のり子さんをナビゲーターに迎え、展示をより深く味わえる構成に。声というメディアが加わることで、原画や空間が持つ時間性が一層際立ちます。視覚と聴覚が重なり合い、作品との距離が自然と縮まっていく感覚は、本展ならではの体験です。

あだち充先生(左)と日髙のり子さん(右)/photo by ©FASHION HEADLINE

55年を「懐かしさ」で終わらせないために
実際に展示を体験して強く感じたのは、あだち充の作品が決して過去のものではない、ということでした。原画に宿る線の緊張感や、物語の余白が生み出す想像力は、今の時代においても十分に有効です。

photo by ©FASHION HEADLINE | ©あだち充/小学館
本展は、ファンに向けた回顧であると同時に、日本の漫画表現がどのように成熟してきたのかを示す文化的なドキュメントでもあります。漫画を「読む」文化から、「体感する」文化へ。その橋渡しとして、『―画業55周年記念― あだち充展』は確かな存在感を放っています。



[INFORMATION]
『―画業55周年記念― あだち充展』

会期:2025年12月19日(金)~2026年1月14日(水)
※2026年1月1日(木・祝)は休業

開催時間:10:00~19:00(最終入場18:30)

会場:池袋・サンシャインシティ 展示ホールC
(東京都豊島区東池袋3-1-4 文化会館ビル3F)

チケット:
・大人(中学生以上)前売2,100円/当日2,300円
・小人(小学生以下)前売1,300円/当日1,500円
・特典付きチケット、プレミアム特典付きチケットあり
※音声ガイド:別途800円(税込)



Editorial department
  • あだち充先生(左)と日髙のり子さん(右)
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