20人を演じ切り100分間を駆け抜ける『マクベス』への挑戦 --俳優・佐々木蔵之介【INTERVIEW】

2015.07.04

舞台で、テレビドラマで、そしてトーク番組でもさまざまな顔を見せる俳優・佐々木蔵之介さん。7月12日から始まる舞台『マクベス』では、20人以上の登場人物を一人で演じ切るという革新的な演出が話題の「スコットランド・ナショナル・シアター(NTS)版マクベス」に挑みます。

もともと舞台出身であり、他のシェイクスピア劇やマクベス役を演じた経験をもつ蔵之介さんにとっても並々ならぬ意欲溢れる『マクベス』。その挑戦について伺いました。

──シェイクスピアの4大悲劇のひとつ『マクベス』を演じられるということですが、今回はなんと約100分間にわたる、ほぼ一人芝居なのだとか。

はい、舞台は病院。僕は入院患者の男で、彼がマクベスの物語を語り出すという設定です。ある時はマクベス、そしてマクベス夫人や魔女たち、ダンカン王やバンクォー…さまざまな登場人物たちを演じます。舞台上は監視カメラで撮影され、3つのモニターに映し出されるという演出で、つまり僕はいろんな角度から100分間、常に見られている状態なんです。

──一人の人間が20の役を演じるというのはどういう感覚ですか?

演じるにあたっては、まずはセリフの多さですね。脚をめくってもめくっても、自分のセリフしかない。たとえばダンカンを殺す、殺せない…といったマクベスとマクベス夫人のセリフの応酬があるのですが、次のセリフは?なんて待っていても「あ、次も自分なんだ」と。当たり前ですが、延々と自分のセリフが続くしかない状況なんです(笑)。

──見ているこちらも混乱しないだろうかと心配してしまうのですが。

舞台ではモニターを使って登場人物が効果的に映し出される演出なので、すごくわかりやすくなっています。男をいろんな角度から映し出すので、観客は彼の動きを追いかけながら、なぜ彼は病棟に入れられたのか、なぜ傷を負っているのか、そして手に持った袋は何だろう?といろんな想像をふくらませていただければ。そして、彼に乗り移ったかのように様々な登場人物の人格がかわるがわる演じられていく。まるで分裂していくかのような、一人の男の姿を通してマクベスの物語を追っていけるので入りやすいと思います。

──それだけ多くの人格を演じていると、どの登場人物が好きだとかはないのですか?

特にないですが、女性を演じることは新鮮です。たとえばマクベス夫人のセリフ、「いますぐ私を女でなくし、頭のてっぺんから爪先まで、どす黒い残忍さでいっぱいにして!」なんてセリフ、普段絶対に言う機会がないですからね(笑)。

──演出はNTSオリジナル版と同様にアンドリュー・ゴールドバーグ氏を招聘されています。外国人の演出家ということでいつもと違うことはありますか?

まずは“Great!”“Excellent!!”と褒め言葉から入るところですね。日本だと基本「ダメ出し」から入るんですよ(笑)。アンドリューは稽古中も脚本でセリフを追うことなく、ジッと僕の演技だけを見てくれているんです。いつも笑顔を絶やさず僕が一番やりやすい方法を考えてくれています。

──セリフ劇、しかも日本語のセリフという状況で意思の疎通は問題ないのですか?

脚本にはすべて行数が振ってあって「今の何ライン目が…」というように的確な指摘が入ります。日本語と英語の違いはあっても、一つの舞台を創り上げるうえで通じるものがあると感じています。あとはアンドリューの笑顔がすべてですね。

──製作発表会見では「いつでも逃げる準備はできている」なんておっしゃっていましたが(笑)。フォトブック『動く森 ―スコットランド「マクベス」紀行―』の撮影で実際にスコットランドにも行かれたということですが、それらを通して何か心境の変化はありましたか?

ええ、ダンカン王殺しの場やマクダフ城址、バーナムの森などを実際に見て廻りました。スコットランドといえば、森や湖の自然やバグパイプにキルトくらいの印象だったのですが、実際に足を踏み入れてまず感じたことは「なんて人に優しくない自然なんだ!」ということ(笑)。マクベス最期の場となったダンシネインの丘にも登ったのですが、丘と言うより山なんです。午後からゆっくり登って丘の上でビールでもなんて思っていたのに、意外と標高が高いわ、風も強いわ、雨は降りそうだわで(笑)。そこにあったのは癒しの自然ではなく、「闘いの自然」でした。シェイクスピアの物語に出てくる魔女とか妖精とか、目に見えない生命力が息づいているという空気感。なぜシェイクスピア劇はあんなに叫んでばかりなのかと思っていましたが、「不動の大地よ!」と叫ぶマクベスの気持ちが少し分かったような気がしました。

──シェイクスピアの世界を肌で感じられたわけですね。ただ、シェイクスピア劇はセリフが難解だというイメージも持たれがちですが、演じてみていかがですか。

『マクベス』はシェイクスピアの中でも短編ですし、極端に言えばマクベスという男が悩み迷うという話です。魔女やマクベス夫人にそそのかされ、幻覚まで見るようになる。「ひょっとしたら俺、いけるかも?」「あなた、やれるわよ!」で、結果「やってしもた!」みたいな(笑)。でも、誰の心の中にもマクベスやマクベス夫人はいると思うんです。一度、決断したことに、迷いが出たり、後悔したりしてしまう。そんな人間臭い弱さを持つ登場人物だからこそ共感できる。ただ、人を殺すという一線を越えてしまうところが、芝居を観る醍醐味だと思います。400年以上にわたって演じられてきたシェイクスピアの古典劇『マクベス』が、新しい演出で甦るのをぜひ観ていただきたいですね。

──稽古も大詰めで緊張の毎日だと思いますが、休日はどう過ごされているのですか?

稽古の合間はなるべくリラックスを心がけてしまいますね。買い物も部屋着や入浴剤なんかを買ってしまいます。食べる物から身の回りのあれこれまで「身体にいいもの」を取り入れることを大事にしています。あとはストレッチとかマッサージとか。結局、舞台のための身体のメンテナンスに費やしてしまっています(笑)。

──昨年(2014年)はスーパー歌舞伎セカンドに挑戦され、今年はシェイクスピアのひとり芝居。毎年ハードルの高い仕事を選んでいくというような考えがあるのでしょうか。その原動力を知りたいです。

あえて苦しい挑戦を求めているわけではまったくないです!!これはめぐり合わせなんです。歌舞伎の時は(市川)猿之助さん、今回もNTSの皆さんとご一緒できるというチャンスに巡り合えた。そうやって人やチャンスにめぐり合えることには本当に感謝しているし、大切にしていきたいと思っています。ただ、僕自身、楽できるなら楽したいですけど…、今までそんな舞台に聞いたことないですけどね(笑)。


■プロフィール
佐々木蔵之介
京都府出身。神戸大学在学中の1990年、惑星ピスタチオ旗揚げに参加。看板俳優として、1998年の退団まで全公演に出演。2000年、NHK朝の連続テレビ小説「オードリー」で注目される。2005年には自身がプロデュースする演劇ユニット・Team申(チームさる)を立ち上げ、公演を企画、出演。14年3月には『スーパー歌舞伎セカンド空ヲ刻ム者-若き仏師の物語』で歌舞伎の舞台に出演するなど、舞台のみならず、映画、テレビでも幅広い役をこなせるオールラウンドプレイヤーとして活躍、その人気は老若男女問わず高い支持を得ている。

■マクベス関連情報
日本版演出:アンドリュー・ゴールドバーグ
作:ウィリアム・シェイクスピア
翻訳:松岡和子訳『マクベス』より
出演:佐々木蔵之介 ほか

2015年7月12日、渋谷パルコ劇場を皮切りに、豊橋、大阪横浜、北九州と全国5カ所で公演を行う。※当日券あり
【オフィシャル特設サイト】
http://www.parco-play.com/web/play/macbeth/

■フォトブック関連情報
『動く森 ―スコットランド「マクベス」紀行―』
佐々木蔵之介(撮影/福山楡青)
2,500円(2015年7月11日扶桑社より発売予定)
和田安代
  • 7月12日からの舞台『マクベス』では、一人で20役を演じる
  • インタビュー中も、次々とマクベスの台詞が飛び出す佐々木さん
  • 『マクベス』は渋谷パルコ劇場を皮切りに、全国5カ所で公演を行う
  • 『マクベス』の舞台スコットランドで撮影されたフォトブック『動く森ースコットランド「マクベス」紀行ー』
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