エルメスの“知的なゲーム”を作り出す女性デザイナー--ヴェロニク・ニシャニアン【INTERVIEW】

2014.12.04

11月中旬、「エルメス(HERMES)」のメンズ15SSシーズンを披露するパーティー「IMPRIMES MANIFESTES」が開かれた。ウエアからアクセサリーまで、メンズアイテムの最新コレクションをいち早く楽しめる夜だった。これに合わせメンズ部門を統括するアーティスティックディレクター、ヴェロニク・ニシャニアン(Veronique Nichanian)が来日した。日本好きで毎年来日しているというヴェロニク。今回もリサーチしに日本のストリートへ足を運んだようだ。その合間を縫い、インタビューの時間をもらった。

彼女は1988年にエルメスのメンズデザイナーに就任。当時の社長ジャン=ルイ・デュマから“創造の自由”を与えられ、その自由を手に、以降26年間エルメスメンズコレクションの“時”を紡いでいる。

「1シーズンで消費される服を作っているという考えは一切ありません」。そう明言するヴェロニク。彼女にとってのファッションクリエーションとは何であろう。

■26年間一繋がりとなった叙事詩

エルメス15SSメンズコレクションは、ダークトーンで重厚な14-15AWとは打って変わってカラフルでグラフィカル、そしてリラックスした男性像を描いた。

「私のコレクションは前回の流れを受けて先に進んでいきます。小説を書くように一つひとつのコレクションが章のようにつながって、大きな物語となるように考えているのです。15SSでは前シーズンのダークな世界を切って、新たな世界にしようと思いました」

今までのコレクションでもグラフィカルな要素は取り入れられているが、今回は大きく発展した。メゾンのスカーフから引用した柄「アルメニアの庭」や「グリッチ」、今コレクションのオリジナルデザインである「フラグメンツ」、経糸を染めてから緯糸を織り込むイカット(絣)技法などがコットンやシルクのシャツ、ブルゾン、パンツなどに散りばめられている。

その豊かな色使いに、清潔感の中にも微かに見える肌が繊細な官能を注ぐ。「透け感も様々な表現で提案したかった」と話すアイテム群は、グログランリボンをつないで仕立てたジャケット、コットンモスリンの上にコットンを重ねたブルゾン、ラムスキンのヌバックコードで編んだTシャツなど。どれもメゾンの職人技を駆使したガーメントに仕上がっている。そして足元はサンダルや白いスリッポンタイプのスニーカー。カジュアルなショーツスタイルにもスーツにも合わせられ、自由・ノンシャラン(飄々とした)なスタイルが完成する。ヴェロニクは軽やかに色と素材でエルメスの男性像を作り出すのだ。

「エルメスを着ていただきたいのは、年齢や背景、肌の色などにかかわりなく、“革新”を求めるインテレクチュアル(知的)な方です。ルックスは重要ではなく、自由な精神を持った男性が格好良い。私は精神に訴えるコレクション表現をしています。エルメスを着る方は、決してロゴやステイタスを誇示するために着用するのではありません。シルエットや素材、ディテールなどに表現されている“革新”を理解し、そしてその“革新”が自身の個性と感応するから着るのです。中には彼ら自身が知らなかった個性を見つけることもあるでしょう」。エルメスを纏うことは自分自身を確認する行為のようであり、洋服を介した“知的なゲーム”のようだ。

このアティチュードが26年にわたりエルメスのメンズを率いてきた所以だろうか。過去のコレクションを見ると、シルエットは大きく変わらず、デザインは奇を衒わない。しかし、シーズン毎に新しい素材表現やディテールの遊びが職人技によりなされる。精緻に仕立てられ、発表されるコレクションはバッハのフーガのように普遍的で新鮮だ。そこに流れる時間は、半年ごとに移り変わる、いわゆる“モード”とは異なった時間のようだ。

■次元を超える洋服

最近、友人の哲学者から褒め言葉をもらったという。「“あなたは、ゆっくりと、時を進める手段を持っている”……こう言われたのです。そう、私のやりたいことは、時間を消し去るのではなく、持続する時間を作ることです。エルメスを購入することは、消費するものを買うという行為ではありません。品質や革新、職人技などと共に長い時間を過ごすということなのです」

彼女のコレクションは時を超える。ということはもちろん“世代”も超える。顧客層は幅広く、20代で手に取る人もいるという。

「とても面白いのは、他とは違うものを探している若い世代の方がエルメスに惹かれているということ。現代の若年層はデジタル世界のアイテムに興味を持ち、革新的なものに惹かれています。特に日本の若い男性はニッチなものを探していて、そして好奇心が旺盛。だから日本に来るのが楽しいのです」と微笑むヴェロニク。そして人と同時に社会も注視してきた。

「全体的な移り変わり、また人の精神性がどう推移していくかに興味があります。都市計画者や建築家のような視点から見ていると言いますか、どういう構造の街でどのように人々が生活しているか気になります。洋服も建築や都市計画のように、多くの人に影響を与える発信源となると思うのです」

フィジカルと精神、次元をまたぐ服を生み出すヴェロニク。その愛くるしい双眸は洋服の未来を見据えているようだ。エルメスのメンズは宝石のように色褪せず、革新の煌めきを世界の男性に与えていくのだろう。
Mitsuhiro Ebihara
  • 「エルメス」メンズアーティスティックディレクターのヴェロニク・ニシャニアン氏
  • エルメス15SSメンズコレクションファーストルック。ライトベージュのスーツにホワイトスニーカーを合わせる。シャツのプリントは「グリッチ」
  • 「アルメニアの庭」プリントのシャツブルゾンにコットンボイルをレイヤー、パンツは「フラグメンツ」プリント
  • コットンモスリンの上にコットンを重ねたブルゾンから肌が淡く覗く。肌を露出しつつもクリーンな印象
  • カラーブロックシャツとイカットによるフラワープリントパンツがグラフィカル
  • モデルは様々な人種が登場した
  • Tシャツはラムスキン製。ヌバックコードを編んだ繊細な逸品だ
  • グログランリボンをつないで仕立てた透け感のあるジャケットは職人技の光るアイテム
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