イッセイミヤケ新香水「シティブロッサム」を表現した、ストリートに咲いた折り紙の花

2015.03.23
多くの女性に愛され続けている「ロードゥ イッセイ」から、フランス人のアーティスト、マドモワゼル・モーリスとのコラボレーションによる春の限定品「ロードゥ イッセイ シティ ブロッサム」が生まれ、全国販売が2月25日から一斉にはじまった。それに先立ち、マドモワゼル・モーリスによるライブインスタレーションが行われ、愛らしい折り紙々が、ISSEY MIYAKE / AOYAMAのウインドーを、はなやかに飾った。まるでひな祭りの前祝いのように(インスタレーションは、3月3日に終了)。

イッセイ
Photo by Yusuke Tsuchida


■マドモワゼル・モーリスの作品から「シティ ブロッサム」へ

1992年に誕生した名香「ロードゥ イッセイ」。フランス語で「イッセイの水」の意味の名が語るように、 “水”という画期的なコンセプトはフレグランス界に新しい時代を築いてきた。洗練された大人の香りとボトルデザイン。他に変わるもののない傑出した独創性は、22年を経た今もなお、多くの女性を魅了してやまない。しかし、ロードゥ イッセイをよく知らない新しい世代が生まれきているのも事実だ。そういう若い世代に向けて、ロードゥ イッセイへの扉を開くようなフレグランスとして、「シティ ブロッサム」は創作された。そのインスピレーションの源となったのは、今注目を集めている、1984年生まれのアーティスト、マドモワゼル・モーリスの作品だった。

モーリスは、パリを拠点に活動している。都会の建築物や道路の外壁、時に自然の岩などに、折り紙を貼るという手法によって絵画を描く。折り紙といっても、使う紙は折り紙用のものではなく、作品によって異なった紙質、サイズのものが使われる。色は、レインボーカラーが中心。コンクリートや石といった、ともすると殺伐としがちな都市空間に、明るく楽しい、心なごむ空気感をもたらす。作品は、貼った場所を汚さないために、数日間で取り除かれ、紙は再利用される。

「モーリスの作品と出合って、存在しない想像上の花をモチーフとして使う、というアイデアが浮かびました」と、開発責任者のアニエス・サタン氏(ボーテ・プレステージ・インターナショナル社イッセイミヤケパルファム国際マーケティングディレクター)は振り返る。モーリスの作品ありき、からはじまったシティ ブロッサムのプロジェクト。従来のプロセス、つまり、コンセプトから香り、ボトルを含むデザインを経て、広告ビジュアルへと至るというのとは、まったく真逆の形で進んでいった。

ボトルとパッケージのグラフィックデザインは、モーリスが担当。今回の創作は、モーリスの作品をどのように解釈し、ロードゥ イッセイをベースに、何を表現するかが鍵となった。

サタン氏は、モーリスの作品について、こう述べている。
「彼女の作品のなかには、都会の単調さや単色さというものがあると同時に、非常にカラフルであって、的な感動を受けます。そこにとどまることなく、どんな人にもなぜか幼少期にもどったような楽しさ、素朴な喜びを与えてくれるのです。子供に返ったような、そういった歓喜をもたらすのです」

香りは、高名な調香師、アルベルト・モリヤス氏が手がけた。香りづくりにおいても、通常なら、コンセプトやストーリー、キーワードなどを伝えるところだが、今回はそういったものはなかった。サタン氏は、単にモーリスの作品をそのまま見せたという。「彼は作品を把握し、理解しました。何かの誕生、新しい誕生、と同時に、そこから飛躍していく何かを感じる。それは、あたかも、紙で折った花を、徐々に開いていくような、そういった感覚だと語りました」

モリヤス氏は、「春の崇高な息吹」に焦点を合わせ、1,250種類はあるといわれる香料の中から選び、組み合わせていった。フローラルとウッディを香調に、トップノートは春の訪れとともに膨らみはじめた花のつぼみを生き生きと、ミドルノートではまだ半分しか開いていない花のみずみずしさを強調。そして、優美かつ大胆に、満開の時期を迎えた花々が見事に表現されるベースノート。若々しく、快活な印象から、心地よく感じられるさわやかさ、しだいに熟していくかのように、ロードゥ イッセイを彷彿する香りへと移り変わっていく。モリヤス氏のモーリス作品の解釈が、繊細な香りにのって伝わってくる。

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Photo by Yusuke Tsuchida

ライブインスタレーションは、2月11日の朝から12日の午後まで続いた。ウインドーの両面にフィルムを張り、裏面(ショップ内)にも通りの面と同様の折り紙が貼られた。

ちなみに、モーリスは名ではなく、一世代上によくある男性の名前だという。
芸術家には非常に男性が多いから、マドモワゼルとマッチングしました。それと、山という素朴な環境中で育ったので、男性の名前をつけることによって、あたかも私の回りにいたおじさん達から支えてもらうという意味も含んでいます」

■マドモワゼル モーリスと日本の関係

実は、モーリスは、日本に滞在していた経験がある。すでにファブリックを使って創作活動をしていたものの、自らの表現方法を探し求めていた。そこで、ワーキングホリデー制度を利用して来日。モーリス曰く、「日本に恋をしてしまう」。しかし、3・11東日本大震災が起こり、フランスに帰ることに。日本で、写真付きの本を見て折り紙を覚えていたが、折り始めたのは帰国してからのことだった。それは、作品というよりもむしろ、「震災の被害者へのオマージュの意味を込めた」もので、リサイクルの紙片やさまざまな紙を使い、百数個の鳥や花を折った。「折っている時に、瞑想状態になります。時間が止まったような、そして、自分の世界に入っていきます」。確かに、折るという作業は、一種儀式のような厳粛な気持ちになるものだ。

モーリスが大事にしていることは、「植物や動物といった自然界のものを作品にする」こと。グラフィックで抽象的な形に折られた花や鳥が、そのエレメントとなる。「シティ ブロッサム」のインスタレーションでは、「作品を通じて、都会に自然をもたらし、都市に集う人間と自然とが対話すること」がテーマとなっている。人と自然とのつながり、あるいは、四季に対する関わり方に関しては、日本人の感性から大きな影響を受けたという。

制作は、まず一番大きなメインとなる要素から始められる。大まかに形がまとまっていくと思ったらそうではなく、最終的に細かいエレメントを貼っていった時にはじめて、作品に詩が生まれ、軽さというものがでてくるという。小さいものは、マジックをもたらすとも。「おもしろいことに、小さな花びらを貼っていくことによって、香水の軽さや精細な感受性、つまり手に取ることができない抽象的なものを、明確に表現できていると思いました」。 の木は、きれいに開花していても、それが現実的に話しかけてくるのは、小さな花びらが無数に散っていく時、そういった感覚だと例を挙げてわかりやすく説明してくれる。

「私にとっては、紙をひとつひとつ折って花をつくるということは、人間ひとりひとりを折っていく、というような気持ちで作品をつくっています。だから、花びらが人ならば、個人がいっぱいいるからそこに連帯がある、そういった感覚を感じています」

作品に、モーリスの純粋な想いやメッセージが素直に折りこまれているから、人々の心を引きつけることができる。

イッセイ
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Photos by Yusuke Tsuchida

写真・上:店内にあるフレグランスコーナーの背景にも花が描かれた
写真・下:表参道から根津美術館に向かう通りにある ISSEY MIYAKE / AOYAMAのショップ。インスタレーションを見入る小学生たち。また、スマホで写真を撮る人など、通りを歩く大人も足を止めていた

インタビューの最後に、モーリスは、「イッセイ ミヤケの作品のなかに、自然との関わり方を非常によく感じます。言い換えれば、人間の本来あるべき姿にもどっていくといった考え方を、実感できました。今回のコラボレーションを非常に光栄に思います」と、締めくくった。

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Photos by Tohru Yuasa

写真・左:ロードゥ イッセイ シティブロッサム オードトワレ(50ml/9,900円)、(90ml/1万3,200円)
写真・右:ボーテ・プレステージ・インターナショナル社のイッセイミヤケパルファム国際マーケティングディレクターのアニエス・サタン氏

なお、モーリスによるライブインスタレーションは、ロンドン東京に続き、パリ、ニューヨークでも行われた。4都市の旗艦店での模様が一つの動画に編集され、イッセイ ミヤケの公式サイトにて公開される予定。
清水早苗
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