ピカソでもマティスでもなく、猪熊弦一郎であるために--丸亀市猪熊弦一郎現代美術館を訪ねて【Report--2/2】

2016.06.28
1902年香川県高松市に生まれた画家・猪熊弦一郎。作品を通じて猪熊弦一郎とはどんな人物だったのかを知るために、猪熊の故郷香川にある「丸亀市猪熊弦一郎美術館(通称 MIMOCA、以下MIMOCA)」を訪ねた。

MIMOCAを訪ねるまで、頭の中には一つの疑問があった。猪熊弦一郎のことを調べる程、その多彩な絵画様式に驚かされ、そしてまた「どれが当の猪熊さんなのか」という疑問が沸き上がってきたのだ。

もちろん、どの作品もその絵筆を持った猪熊作品に違いないのだが、時にその作品からはアンリマティスを色濃く感じ、時に作品からはピカソの面影を感じる。また、具象と抽象を行き来し、自在に色彩やフォルムを操っているようにさえ見える。

さあ、猪熊はどのような生涯をアーティストとして歩んだのか、6月30日まで開催中の展示「猪熊弦一郎展「私の履歴書」前編ーー絵には勇気がいる」を同館学芸員の古野華奈子さんとともに巡りながらお届けしよう。

1/2はこちらから。

■幼少期から晩年まで、約2万点の猪熊作品の収蔵

約2万点もの猪熊作品を所蔵するMIMOCA。猪熊が幼少期に書いた絵から、東京美術大学(現 東京藝術大学)在学時の作品も含めて、日本フランスニューヨークハワイなどで創作された晩年までの作品を収蔵している。それに加えて、猪熊が蒐集していた雑多なものたちも保管されており、その時々の企画に合わせてセレクトされ、彼の絵画作品と共に展示されている。MIMOCAは、まさに猪熊の生涯に渡る創作活動の軌跡を知ることが出来る場だ。

“MIMOCA”


■私の履歴書ーー絵には勇気がいる

5月にMIMOCAを訪れた時は、1979年に日本経済新聞の連載「私の履歴書」のために猪熊が半生を綴った原稿を元に構成された企画展「猪熊弦一郎展「私の履歴書」:前編ーー絵には勇気がいる」と、猪熊が晩年描いた「顔シリーズ」が展示されていた。学芸員の古野さんと共にこの二つの展示を歩きながら彼の作品を通して猪熊と向き合ってみたい。


■絵の上手な少年が画家・猪熊弦一郎になるまで

「私の履歴書」を元に猪熊の半生を知る企画展は、猪熊が絵画に目覚めた幼少期の作品からスタートする。その後、現東京藝術大学に進んだ猪熊は、後に画家として活躍する同級生、小磯良平、荻須高徳、中西利雄、岡田謙三、山口長男らの洗練を受ける。同級生たちと切磋琢磨し、自分らしい作品とはと猪熊が試行錯誤を繰り返したことは、次々と作風の変わる作品からも感じ取れる。「どんな絵画表現が出来るのだろうか」と言う問いに対するその時々の猪熊の答えが作品になっているかのようだ。

“MIMOCA”
《題名不明》1919年


“MIMOCA”
《画室》1932年



■マティスからの一言ーー「お前の絵はうますぎる」

学生時代よりパリに行くことを熱望していた猪熊は、1938年妻・文子と共に憧れの地を踏む。そこで猪熊はマティスに絵を見てもらう機会を得るのだが、そこでマティスに「お前の絵はうますぎる」と言われる。このことを猪熊は、著書『私の履歴書』にこう記している。

ーー結局、うまく描くということは人によく見てもらいたいと思うために描くことに通じている。(中略)思ったことを素直な、虚飾のない姿でカンバスにぶっつけることこそ一番大切だ。「絵がうますぎる」という先生の言葉はそんな意味だ。(中略)この言葉は私の一生を通じて、すべてのことに最も大きな教訓となっているーー


■自分らしい表現を追求して

猪熊と親交が深かった画家の一人に藤田嗣治がいる。藤田と猪熊は第二次世界大戦中、フランスの片田舎へ共に疎開したり、日本への引き上げ船に乗るようにと藤田が猪熊を諭したりと、まさに寝食を共にしながら過ごした友人でもあった。同企画展では、藤田独特の乳白色の地塗りのテクニックを猪熊なりに真似たような作品『レゼシーの人形のような子供』(1939)も展示されている。

また、日本への最後の引き上げ船に乗る直前まで、戦火の中描き続けた作品『マドモアゼルM』(1940)。この作品はパリでの最後の作品となり、猪熊の具象作品の代表作と言われている。

“MIMOCA”
《マドモアゼルM》1940年


3年という短いパリ滞在期間においても、猪熊の作品は次々とその様相を変えてゆく。濃密な3年間、自分らしい表現とは何かを追求する猪熊の姿を、この展示を通じて知ることができた。猪熊は制作活動を通じ、「自分の表現とは何か」「美しさとは何か」を、生涯問い続けていたのだろう。アーティスト猪熊弦一郎の生涯は、創作を通じた発見の連続だったのかもしれない。

ーー私は画家になって本当に良かったと思う。(中略)毎日を喜びと感謝を持ちつつ制作を続け、ますます子供の心のように清く生き生きとそして明るく、何事によらず未知の世界に大きな驚きと興味を持ち続けて、いままでにない何かを作り上げたい念願で一杯である。ーー『私の履歴書』猪熊弦一郎著より抜粋

MIMOCAでは、勇気を持って絵と向き合うことを選んだアーティスト・猪熊弦一郎の軌跡に触れることができる。瀬戸内を訪ねるのなら、ぜひ訪れたい場所の一つだ。


展覧会情報】
企画展「金氏徹平のメルカトル・メンブレン」
会期:7月17日から11月6日

常設展「猪熊弦一郎展 ニューヨークでの制作ーデザイン・壁」
会期:7月17日から11月6日

特別展示「ホンマタカシ《三越包装紙》」
会期:7月17日から11月6日

【美術館情報】
丸亀市猪熊弦一郎現代美術館
住所:香川県丸亀市浜町80-1(JR丸亀駅前)
開館時間:10時から18時まで(入館は17時30分まで)
休館日:年末(12月25日から30日)※臨時休館の場合あり
Shigematsu Yuka
  • アトリエの猪熊弦一郎 1920年代中頃
  • 猪熊弦一郎《題名不明》1919年
  • 猪熊弦一郎《画室》1932年
  • 猪熊弦一郎《マドモアゼルM》1940年
  • 常設展「猪熊弦一郎展 Faces」展示風景
  • 猪熊コレクション(猪熊や妻文子が収集していたもの)
  • 猪熊コレクション(猪熊や妻文子が収集していたもの)
  • 常設展「猪熊弦一郎展 Faces」展示風景
  • 常設展「猪熊弦一郎展 Faces」展示風景
  • 常設展「猪熊弦一郎展 Faces」展示風景
  • 常設展「猪熊弦一郎展 Faces」展示風景
  • 企画展「猪熊弦一郎展「私の履歴書」前編」展示風景
  • 企画展「猪熊弦一郎展「私の履歴書」前編」展示風景
ページトップへ