東急プラザ銀座に新店舗をオープンしたコンセント、パリ在住20年のバイヤー湯沢由貴子のセレクト眼【INTERVIEW】

2016.05.10

アッシュ・ペー・フランス(H.P.FRANCE)が東急プラザ銀座3階にオープンしたコンセント銀座(CONCENTO PARIS H.P.FRANCE GINZA)が1ヶ月を経過して好調に推移している。

“ジェンダーレス”を牽引するJ.W.アンダーソン(J.W.Anderson)を始め、MSGM、ウォルター、スウォッシュ(SWASH)、などヨーロッパデザイナーを中心に、ミキオ・サカベ、ジェニー・ファックスなど東京ブランドを加え、インポートブランドが90%以上を占める。ノームコア、アスレジャーのトレンドで同質化が進むセレクトショップのなかで、モード系ハイトレンドのエッジィな品揃えは国内では異質。雑貨ファインジュエリーを含め、ショップオリジナルのアイテムに頼らないそのバイイングスタイルは、セレクトショップ来のスタイル回帰を彷彿とさせる。

東急プラザ銀座のエントランスフロアとなる3階の正面、150平米の広さで展開される同店は表参道店から面積が拡大され移転。4月27日には大阪梅田のハービスプラザENT大阪店も増床リニューアルを果たした。コンセント両店のバイイングを担当するパリ在住バイヤー&ディレクターの湯沢由貴子さんに話を聞いた。

■オープン1ヶ月で売り上げ3,000万円達成

Q:東急プラザ銀座店がオープン1ヶ月を経過し、当初の予想していた動きと結果はいかがでした?

湯沢:数字的にはオープン1ヶ月で約3000万円売り上げており、当初の目標を達成している状況です。コンサバな商品だけが動いていて、洋服が売れない時代だと業界では言われがちなのですが、モード系の商品を求めているお客さまが実際には多いという印象です。

昨日も和服でいらっしゃったお客さまが「最近は洋服で面白いものがなかったのだけれど、久しぶりに面白いモノがあった」と、私たちにとっては本当にうれしい反応を頂きました。

以前、日本橋三越本店ポップアップを出店したときも、老舗百貨店なので落ち着いたお客さまが多いのでシックなものを好まれると思っていたのですが、若手のデザイナーの少し尖った商品を求められる大人の女性の方が多く、有名ブランドのブティックとはまた違ったものを探していた、という声は大人の女性からよく耳にしましたので、強気でモード系のバイイングをした結果が現れているのだと思っています。

Q:実際の顧客はどういった方が多いのですか?

湯沢:特に今シーズンはジェンダーレスが大きなキーワードになっていることもあって、男性のお客さまも多く、新しい流れを感じています。インバウンドに関しても、アジアだけではなく、オーストラリア、中東、ヨーロッパと幅広い購買層は、さすがに銀座というロケーションを実感しています。

ジェンダーレスという傾向に関して、これは大阪店の例ですが、今年1月に入荷した J.W.アンダーソンの商品はメンズウィメンズが全く同じデザインの商品があって、まずメンズから入荷したのですが、サイズが48と大きいにもかかわらず、オーバーサイズというトレンドの背景もあり、すべて女性が購入され、すぐに完売してしまいました。その後に、ウィメンズが入荷してそれを男性が買っていくという現象が既に起こっています。

Q:ヴェトモンのオーバーサイズのコレクションが受けるのは、そういう時代の気分をいち早くつかんでいたからなのでしょうね。コンセントの今シーズンのバイイングテーマを説明して頂けますか?

湯沢:「新しき変態」をテーマとしました。さなぎが蝶に“変態”するような感覚です。ジェンダーレスのテーマは、モードではすっかり一般化しているので、その先をというイメージです。

(パリの雑貨・インテリアの総合展示会)メゾン・エ・オブジェでのテーマや、アカデミー賞を取った映画『レヴェナント』にしても、自然への回帰、野生への憧れというのは全体的な傾向としてすごく感じます。ノームコアとは対極にあるファッションの流れなのではないでしょうか。実際にオープン時に並べた、ウサギの剥製、動物や恐竜などのフィギュアなどのオブジェも早々に売れました。

プロモーションスペースで展開したジョージア(旧グルジア)のデザイナーSOFIO GONGLIの手編みニットのカーディガンはウールの厚物だったにもかかわらず、ほぼ完売しました。彼女の商品は東ヨーロッパのデザイナーたちが集まって行っていた展示会で一目惚れして、銀座店のオープニングに是非、と実現。アニマルモチーフなどの大振りの七宝焼きのアクセサリーも好評でした。

次の秋冬シーズンも強気でモード系ブランドを買い付けています。毛皮なども結構、発注しました。ジェンダーレスな、男性のものをさらっと着てしまうという女性像をイメージしています。

■買い付けスタート時のテーマはいつも白紙

Q:今回の銀座店は表参道店からの移設で、面積も増えましたが、これによるショップコンセプトの見直しはあったのですか?

湯沢:いいえ。「21世紀をたくましく生きる大人の女性に向けたバイヤーズショップ」というコンセプトは2001年に大阪に1号店をオープンしたときから、変わっていません。価格ではなく価値を自分で決ることのできる女性がターゲットです。あるときはスポーティブだったり、クチュールなドレスであったり、ガーリーなファッションを着たり、ロック風なときがあったり、さまざまなスタイルを楽しみたいと思っている女性たちです。

Q:各シーズンのバイイングテーマはどのようにして決定されるのですか?

湯沢:毎シーズン、ロンドンコレクションからバイイングをスタートするのですが、その段階でテーマは全く白紙です。最後、すべて買い付けを終えマップを作って行くときに不思議とテーマが統一されているのです。普段は自分が好きではない色や形をオーダーしていたり、イメージが自然に決まっている。モードというのはその時代の気分です。展示会でクリエイターなどと話をしていくなかで、自分自身のバイイングのイメージも固まっていきます。

そのシーズンの買い付けを終わったときに、自分がなぜそれを買い付けしたのかしっかりとスタッフに伝えていかなければならないという思いは、バイヤーをスタートしたときから変わっていません。自分がなぜそれを買い付けたか、という理由を常にスタッフに伝えられなければダメ。逆に実際のシーズン売れ筋のトレンドから外れ、買い付けを失敗したと感じた時も、店頭スタッフに私自身の買い付けの意図を理解してもらわなければなりません。

売る難しさは、自分自身が百貨店の店頭に立っていた経験から理解しています。今でも2ヶ月に1度は店頭に立って接客しており、そこから市場のニーズも感じ取ります。

■J.W.アンダーソン、MSGMの次に注目しているデザイナーは?

Q:湯沢さんのキャリアは百貨店からスタートしていると伺いましたが?

湯沢:80年代初めの最もモードが華やかだった時代に百貨店に入社し、ショップマスターとして売上高、差益率、在庫予算を57ヶ月連続で達成し、表彰を受け、パリに出張で行かせてもらったのが、海外コレクション体験の最初です。その後、婦人服飾のバイヤーになり、1993年に13年在籍した百貨店を辞め、語学の勉強のために渡仏。そのときは学生ビザで渡仏しました。その後、商社で貿易業務を経験しました。H.P.フランスに入社したのは2000年で、翌年にコンセントをスタートしました。

Q:ビッグメゾンのショーと新人のショーすべてをご覧になっているのですか?

湯沢:自分たちは大手メゾンのブランドを買い付けているわけではないので、ビッグメゾンのショーチケットはなかなか手に入りません。ディオールシャネルなど、大きなメゾンのショーの華やかさは大好きですが、まだ大々的に知られていないような展示会を細かく回って、ということを1年中繰り返しています。

Q:湯沢さんクラスのベテランバイヤーならチケット入手は容易なのかと思っていました。

湯沢:パリコレのチケットを入手するのはいつの時代でも難しいですね。クレージュのショーを見ることができているのも、現在デザインを手掛けているデザイナーのアルノーとセバスチャンのブランド「コペルニ・フェム(COPERNI FEMME)」を以前から買い付けていたからです。

Q:彼らは2014年度のANDAMファッション・アワード(ANDAM Fashion Award 2014)」でファースト・コレクション・アワードを受賞し、2015年にはLVMHプライズのファイナリストにも選出されましたね。デザイナーとのネットワークは重要だということでしょうか?

湯沢:そうですね。でも彼らがビッグネームのデザイナーになっていくとまた、状況は変わります。それまで、買い付けができていたブランドも商社経由になって、急に買い付けられなくなることもありますから。それで悔しい思いをしていることもこれまでに数多くありますね。

Q:現在、注目しているデザイナーを教えて頂けますか?

湯沢:J.W.アンダーソンはデビューの時からオーダーしています。彼の何か新しいことを提案してくるというパワーと、周りを巻き込んでいくエネルギーは魅力的です。そういう、新しい世界を作っていけるデザイナーという意味ではGiuseppe Di Morabitoにも期待しています。スリッポンスニーカーでゆるく着られる新しいパンククチュールが作れるデザイナーだと思います。ミラノは素晴らしい工場があって、最高の製品が作れる一方で、新しいデザイナーが出てきにくい背景があるのですが、彼には期待しています。

ミラノでは、マッシモ・ジョルジョッティのMSGMを最初のコレクションからオーダーしています。他の新人デザイナーたちがリアリティのない価格帯の商品を発表していた時に、ホワイトシャツを上代1万円台で販売できる価格帯で発表してきて、マーケットを理解した姿勢も業界から高い評価を得ている理由なのだと思います。

Q:マッシモはショーで一般の撮影を禁止したり、現在の行き過ぎたSNSを使ったマーケティングなどにも独自の対応を示していますね。

湯沢:最近はショーでも、プレスやブロガーが全身そのメゾンの洋服で現れてパパラッチされたり、ショーの最中や直後にコレクションの画像がSNSなどに上がるという状況に、私自身も少し疑問を抱いています。みんながスマートフォンで撮影している光景を見ると、せっかくショーを見るのだから、もう少し集中してはと思いますね。

Q:ショー終了後、すぐに商品購入が可能なように、ブランドではシーズンの見直しを発表する動きもあります。

湯沢:本当にそのブランドの洋服が好きで、半年間、店頭に到着するのを待っていらっしゃる沢山のお客さまと普段リアルに接している私たちは、その動きに対して違和感を感じています。実際にショー用ピースと販売アイテムが違うブランドもあり、ユーザーからするとあのブランドではできるのに、この店ではなぜ出来ないの?と誤解を招くおそれもあります。

Q:パリの生活で、テロの影響は大丈夫なのでしょうか?

湯沢:テロがあったからこそ、あえてカフェテラスお茶を飲むというようなフランス人の強さは感じます。こんな時代だからこそ、という思いはみんな同じなのではないでしょうか?

(了)
Text:野田達哉
野田達哉
  • コンセントのバイイングを担当するパリ在住バイヤー&ディレクターの湯沢由貴子さん
  • 東急プラザ銀座3階にオープンしたコンセント銀座(CONCENTO PARIS H.P.FRANCE GINZA)
  • 東急プラザ銀座3階にオープンしたコンセント銀座(CONCENTO PARIS H.P.FRANCE GINZA)
  • 東急プラザ銀座3階にオープンしたコンセント銀座(CONCENTO PARIS H.P.FRANCE GINZA)
  • 東急プラザ銀座3階にオープンしたコンセント銀座(CONCENTO PARIS H.P.FRANCE GINZA)
  • 4月27日にリニューアルオープンした大阪梅田のハービスプラザENT大阪店
  • コンセントのバイイングを担当するパリ在住バイヤー&ディレクターの湯沢由貴子さん
  • グルジアのデザイナーSOFIO GONGLIの手編みニットのカーディガン
  • グルジアのデザイナーSOFIO GONGLIのアクセサリー
  • スマイリーアイテムのアクサセリーも並ぶ
  • 今春夏は動物モチーフのオブジェアイテムが豊富
  • 仏ボルドーのACRILA社のチェア
  • コンセント銀座のディスプレイ
  • コンセント銀座のVP(CONCENTO PARIS H.P.FRANCE GINZA)
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