宇多田ヒカルが惚れた才能――異色のSSW・小袋成彬がプレミアムライブでみせた迫真の芸術【レポート】

2018.03.02


宇多田ヒカルがその歌声に惚れ込み、彼女の最新アルバム『Fantôme』に客演参加(“ともだち with 小袋成彬”)を果たした若きSSW/プロデューサー・小袋成彬(おぶくろなりあき)。

元々は「TOKYO RECORDINGS」というレーベル/プロダクションを主宰し、これまでに水曜日のカンパネラやiriなどの楽曲を手がけたり、松本潤&有村架純主演映画『ナラタージュ』の主題歌を野田洋次郎(RADWIMPS)と共作するなど、裏方として暗躍してきた彼だが、この度4月に宇多田ヒカル全面プロデュースの元、初のソロアルバム『分離派の夏』をリリースすることに。そして、作をもってソニー・ミュージックレーベルズ EPICレコードジャパンからメジャーデビューを果たす。そんな彼のプレミアム・ライブが、先日2月5日にSpotify Japanのオフィス内にて行われた。




「小袋成彬 Spotify LIVE」と題された本イベントは、アルバムからの先行トラック“Lonely One feat.宇多田ヒカル”が、男性新人ソロアーティストとして国内史上初となるSpotifyバイラルランキング(※)1月25日付のウィークリーランキング(日本)初登場1位を記念してのもの。集まったのはメディア関係者と、抽選で選ばれた幸運なオーディエンス数10名。さらに、その応募数があまりにも多かったため、当日はSpotify Japanの各種SNSで生配信も行われた。

予定されていた時刻を少し過ぎた頃、小袋成彬とバックの演奏を務める2人が物々しい機材に囲まれたステージへ現れた。そして、すでにネット上にUPされている『小袋成彬 1stアルバム「分離派の夏」ティザー映像』が上映されると、たちまち空気がピンと張り詰める。彼がソロアルバムを作ることになった理由、そして「芸術とは何か」を問い質すかのような映像は、これから始まるライブパフォーマンスに対して、そして彼の作り上げる作品の世界観へと我々を没入させるかのような演出だ。


宇多田ヒカルとの共演曲“Lonely One feat. 宇多田ヒカル”を含む7曲を披露しながらも、MCはなし。後の取材時には、「ライブは自身の作品を再解釈する行為」と語っていた通り、オーディエンスを前にしながらも、あくまでも内省的に自己と向き合い続ける様は、どこか鬼気迫るような迫力すらも感じさせた。

もちろん、宇多田ヒカルに「この人の声を世に送り出す手助けをしなきゃいけない」という使命感を感じさせたという圧倒的な歌唱力や、海外の最新鋭の音楽ともリンクする音楽性にも注目がいくだろうが、あくまでもそれは装飾に過ぎないのだろう。自身に内面とひたすらに向き合い続けた結果、生まれた楽曲の数々は、まさしく「芸術」と呼ぶに相応しいもの。そしてそれは我々オーディエンスの心を大きく揺さぶった。

未だ26歳という若さながら、音楽業界で広く暗躍し、さらには宇多田ヒカルにその才能を認められるという稀有な逸材=小袋成彬。すでに5月に開催予定の初ワンマンにも予約が殺到。大坂BIG CATでのイベントライブ「HOPE!」や、埼玉史上最大のロックフェス「VIVA LA ROCK 2018」、長野県で開催される野外フェス「TAICOCLUB'18」への出演も決定するなど、音楽リスナーから大きな注目を浴びている。しかし、そんな状況とは裏腹に、「『作品を作ること』と『作品を届けること/売ること』は切り離している」と語っている通り、あくまでも芸術家としてのスタンスをみせている。今後、彼が国内音楽シーンにどのような波紋を広げるのか。期待しながら見届けたい。



(※)バイラルランキングとは、いまソーシャル上にシェアされ、再生されている話題の楽曲をSpotifyが独自にチャート化したもの。



Spincoaster 保坂
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