時代のムードとマッチする、ウクライナの“明と暗”【ウクライナファッションウィーク2/2】

2017.09.17
今期のウクライナファッション・ウィークには、現地のエディター、バイヤー以外にも、米国バーニーズ・ニューヨーク(BARNEYS NEW YORK)のバイヤーや、『ヴォーグ・イタリア(VOGUE Italy)』、『CR ファッションブック(CR Fashionbook)』のエディターなど各国からのインターナショナルゲストも駆け付けた。初めてキエフに訪れたという彼らに理由を聞くと、筆者を含むプレス関係者は、ジョージア出身のデザイナーデムナ・ヴァザリア(Demna Gvasalia)が手がけるヴェトモン(Vêtements)やロシアのゴーシャ・ロブチンスキー(Gosha Rubchinskiy)のマインドがこれまでになく鮮烈で、気鋭ブランドを求めて今期の参加を決めたと口をそろえる。バイヤーの多くは、デパートメントストアやセレクトショップがどこも似通ったセレクションに陥りがちで、スパイスとなるようなパンチの効いたブランドを加えてショップを盛り上げるためだと教えてくれた。

東欧はロシアを筆頭に高額なブランドが多かったものの、この数年で市場が成長し、コンテンポラリーブランドが一気に増加。ミレニアルズを中心とした若手デザイナーによるブランドが、ウクライナのファッション業界を華やかに彩っている。現地で知り合った『ヴォーグ・ウクライナ(VOGUE Ukraine)』や『エル・ウクライナ(ELLE Ukraine)』に寄稿するジャーナリストによると、ウクライナのファッションの特徴はガーリーな要素の強いフェミニンなスタイルが多いことだそう。伝統的な民族衣装やバレエ大国としての文化的背景が影響しているのかもしれない。その反面、共産圏だった名残も色濃く、暗黒時代に焦点を当てた、両極端なブランドが存在する。明と暗、どちらの側面も、困難な時代を生きる現代人のムードと上手くマッチしているのかもしれない。

ユリア・イエンフィムチュック(YULIA YEFIMTCHUK)



2014年にユニセックスブランドとしてスタートしたユリア・イエンフィムチュックは、先シーズンに引き続きソビエト連邦時代のワークウェアから着想を得た。ユティリティというキーワードを主軸に、オーバーサイズで動きやすく、大きなポケットを施した機能性の高いアイテムが揃う。胸に入れられたロシア語のテキストは日語で“美学”を意味する。コレクションには人を寄せ付けないどこか暗く重々しい雰囲気が漂うが、その魅力に引かれるファンは多い。歴史や文化から影響されて磨かれていくユリア・イエンフィムチュックの美学が、時勢とともにどのように変化していくのか、今後も見続けたい。

レイク・スタジオ(Lake Studio)



女性デザイナーデュオ、アナスタシア・リアボコン(Anastasia Riabokon)とオレーシャ・コノノヴァ(Olesya Kononova)が手がけるレイク・スタジオは自然界からインスパイアされたコレクションを展開する。上質なシルク素材とシャーベットトーンによって、淡く軽快なリラックスした大人の女性像を描く。今季は海と水にフォーカスし、ゆるやかな波のようなボリュームやシルエットをコレクションピースに与えた。海の宝石、サンゴのプリントがドレスの上で泳ぎ、その場が優しい空気に包まれているようだった。

ジーン・グリッツフェルト(Jean Gritsfeldt)



ストリートラグジュアリーを提唱するジーン・グリッツフェルトは、メンズウィメンズを展開するブランド。過去にはボクシングリング上やサーカス会場でショーを開催し、そのエンターテイメント性の高さも評価されている。今季はキエフにあるボルィースピリ国際空港の飛行場にて、DHLの航空機からモデルが登場するという演出。“多様性”をテーマに、年齢層の広い一般男女がランウェイを闊歩した。コレクションはイブニングドレスからトラックスーツ、イスラム教徒の女性が纏うドレスやヒジャブのようなルックまで、一貫性はなくバラエティーに富んだ内容。「多様性に理解を」というスローガンを掲げたLGBTパレードが昨年初めてウクライナで行われた事例からも、この国の若者の現状打破への激しい猛りが感じられた。
ELIE INOUE
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