米ラグジュアリーホテルのコンラッド、新サービス始動。新時代の旅のニーズをどのように捉えるか【INTERVIEW】

2015.12.15

コンラッド・ホテルズ&リゾーツ(以下、コンラッド)が新ブランドメッセージを発表した。コンセプトは「NEVER JUST STAY. STAY INSPIRED」。初代「ディレクター オブ インスピレーション」にニロウ・モタメド氏を迎え、今秋より新しく「Conrad 1/3/5」のという新しいコンシェルジュサービスを立ち上げた。

こと近年、インターネットでのブッキングサービスや世界規模で急速に広がるシェアリングエコノミー系のプロットフォームの台頭など、急速な変化に伴いの業界も新たな局面を迎えているようだ。そんな中、米国が誇る一大ホテルグループであるヒルトン・ワールドワイドのスマートラグジュアリーブランド、コンラッドは、どのような未来に向けてサービスの舵を切ったのか。これからの時代の“ラグジュアリー・トラベラー”たちのニーズをコンラッドはどう捉えているのか。新コンシェルジュサービスのキーマンであるニロウ氏に聞いた。


--ニロウさんはどのようなものが「スマートラグジュアリー」であると考えますか。

ニロウ氏:ロゴなどに頼らなくとも質の良さを理解出来る教養の深さが「スマートラグジュアリー」ということでしょう。あるいはハイ&ローの組み合わせを楽しむことができる人。それは食でもファッションでも。例えばコンバースエルメスコーディネートしたり、ある時はシェイクシャックでランチをするけれどミシュランの三ツ星レストランでディナーをしたり。ただしミシュランの星が大事な訳ではありません。重要なのはどんな人に囲まれているのか、いかにリッチな体験をできるかどうかです。

まとめると、「スマートラグジュアリー」を求めている人は、どこかを訪れることによって良い影響を受けたかったり、一時的なものでなくそれからの人生に影響を与えるような関係を求めていたりするということでしょう。

--コンラッドが掲げる「スマートラグジュアリー」が意味するところは。

ニロウ氏:コンラッドの「スマートラグジュアリー」は、ラグジュアリー狂の為のラグジュアリーではありません。コンラッドに訪れるお客様は旅行者として経験豊富な人で、白い素敵なテーブルクロスさえあればラグジュアリーだという単純なことでなく、裕福な経験に価値を見出しています。

今回スタートした新コンセプト「Stay Inspired」の面白いところは、ただサービスを提供するだけでなく、宿泊客にどうやってそういった体験を得られる“支え”になるかが大切だという発想です。「Conrad 1/3/5」を通してホテルのチーム(スタッフ)とお客様との真のエンゲージメントを重要視しているのです。

--「Conrad 1/3/5」が生まれた背景について聞かせてください。

ニロウ氏:私自身が旅行者として、また旅関係のエディターとして感じたフラストレーションは、情報量が多すぎて処理できなかったり、それを処理する時間が十分になかったり、あるいは全く情報がなかったりしたことです。

1時間、3時間、5時間という言い方をしているけれど、要するに「ちょっと時間が空いた、もしくは数時間空き時間があるんだけど何をしたらいいだろう?」と旅先で思ったことがきっかけです。例えば友達にオススメされたお店やレストランなど一軒一軒が遠かったりすることもあるし、念願のギャラリーで過ごしたはいいけれど、その近くでどのレストランを選べばいいかなど悩みますよね。

ゲストにとって、ホテルを出発した時点ですべきことは済んでいて、あとは文化を吸収するだけという形にできればスマートでしょう?

これまでのコンシェルジュとお客様とのコミュニケーションは、「車を呼んでほしい」とか「チケットを手配してくれないか」など単純なやりとりが主だったと思います。「Stay Inspired」のコンセプトのもうひごつの魅力はが魅力的なもうひとつの理由は、ホテルのスタッフが旅先のストリーテーラーになれるということ。

例えば、sons & daughtersでの朝食の時に体験していただいたように(※インタビューの聞き手は「Conrad 1/3/5」を体験するツアーに参加した)、あの店の歴史や成り立ちなどを聞いてもらいましたよね。

私たちは、「Conrad 1/3/5」がホテルスタッフとお客様との最初の会話のきっかけになればと思っています。お客様との対話を通して、具体的な提案やアイデアのきっかけを作るのが狙いです。

そのきっかけ作りの仕掛けはデジタルプラットフォームにも活かされます。あるいは、もしユーザーが誰かと話したくない場合は携帯電話を使って「Conrad 1/3/5」のアプリを起動すれば、出先で同じことを可能するのです。

--旅のスタイルの多様性に、「Conrad 1/3/5」はどのように対応しているのでしょう。

ニロウ氏:文化や美容、ショッピングなど様々な顧客の興味に対応できるように、あらゆるエントリー・ポイントを仕掛けています。

--ニロウさんのキャリアはどのようにコンラッドの仕事に活かされていますか。

ニロウ氏:このプログラムのアイデアは、エディターとしての経験を持つバックグラウンドからきたものです。いわばエディターは魅力を探り出し、引っ張り出すという仕事です。

コンラッドとの取り組みにおいて、私は二つの役割を担っています。一つはアプリやwebサイトのコンテンツやプランニングという編集者としての役割。それ以上に重要な二つ目のミッションは、「Never Just Stay. Stay Inspired」というブランドメッセージ、すなわちコンセプトを、チームメンバー(ホテルスタッフ)のカルチャーとして共有していくことです。

二つ目について補足するならば、チームメンバーをどうすれば“編集者的な”思考ができるように教育するのかも私の仕事です。

--チームメンバーの為のトレーニングプログラムもニロウ氏さんが考案したのですか。

ニロウ氏:はい。私が「ディレクター オブ インスピレーション」に就任してから始まりました。顧客のリクエストが「何かいつもとは違うことがしたい」といった漠然としたものであっても、ゲストの要望を読む力をチームメンバーが身につけられるように訓練しています。このトレーニングプログラムは全世界のコンラッドホテルで実施されているものです。

--ニロウさんにとってホスピタリティとは。

ニロウ氏:私のこれまでのキャリアは、紙に向かってホスピタリティの情熱を注いでいたようなものだったのかもしれません。私の次のステップとして、コンラッドを訪れるすべての人が自分のアイデアに触れることができる、更に私の考えたホスピタリティによってお客様の一人ひとりの体験が編集されてくというのは重要な変化でした。

旅先で現地に住む人と同じような感覚で過ごすのが好きだし、私の好きなものや持っている情報を誰か他の人にシェアするのも大好きなので、現在世界中にある23のコンラッドを訪れる人々に良質な旅を提案できることは感慨深いです。注)現在23に変わりましたので訂正させていただきました。

--ニロウさん自身もホスピタリティ溢れる温かいお人柄ですよね。

ニロウ氏:あなたもとてもナイスよ(笑)。私が生まれた中東はホスピタリティの文化を持っており、私がホスピタリティの世界に興味を抱くのはごく自然なことでした。

日本のことが好きなのも素晴らしいホスピタリティを持っているから。日本の“おもてなし”も大好きです。

コンラッドでは、敬意をもって接しつつ、心のこもった温かみを感じるような……まるで、兄弟姉妹の事を思いやるような気持ちで発想する“おもてなし”がホスピタリティの特徴だと思います。もちろん相手が望んでいる距離感を保つことも大切です。

今の時代のホスピタリティに一番必要なことは、ラグジュアリーとしてのある一定の基準に達していながら、いかに他とは違うホスピタリティが提供できるかにあります。

ホテルに求められていることは、ワンランク上のもの。個々のゲストにとって、もっとインタラクション(相関的)でパーソナライズされた特別な経験を得られる“本物のホスピタリティ”で差をつけていきたいです。


■プロフィール
ニロウ・モタメド(Nilou Motamed)

コンデナスト社のデジタルフードブランド「エピキュリアス(Epicurious)」元編集長。コンデナスト社以前は米大手旅行誌「トラベル + レジャー(Travel + Leisure) 」のフィーチャーディレクターおよび上級特派員として同誌のレストラン記事を牽引。
またCNN とのパートナーシップにより、プリント・デジタル・ソーシャルメディア・テレビを融合させた世界規模のフード・プラットフォーム「T+L’s Eat Like a Local(イート・ライク・ア・ローカル)」スペシャルを制作するなど、多岐にわたる活躍で実績で知られる。世界を代表するカリナリー・オーソリティ(食の権威)として活躍し、2007 年からはジェームズ・ビアード財団レストラン&シェフ・アワードの地域審査員を務めている。
さらに、NBC 「Today」やABC「Good Morning America」などの人気番組や、CNN をはじめとする全米ネットワーク番組にも定期的に出演。レストランレビューのテレビシリーズ「Reservation Required」で司会、旅番組「Travel Spies」の共同司会者も務めている。
イラン生まれ、パリおよびニューヨーク育ち。現在はニューヨークブルックリンに在住。夫は作家として知られるピーター・ジョン・リンドバーグ。
RIEKO.M
  • 「Conrad 1/3/5」のウェブサイト
  • ニロウ・モタメド氏
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