悠久の歴史を紡ぐ、絹の物語~純国産絹、三煌の出来るまで~(後編)

2014.09.30

■三煌の繭は糸が細い、だからゆっくりと巻きとる

三煌の繭を質の高い生糸にするために製糸にもとことんこだわっている。生糸作りを担うのは、群馬県・安中市にある碓氷製糸農業協同組合だ。現在、国内では2社しかない機械繰糸製糸場の1社であり、昔から国内外の有名デザイナーや様々な工房からの依頼が絶えない技術力に定評のある製糸工場だ。
組合長の高村育也氏は「通常の繭は、繭糸の太さが3デニールぐらいですが、三煌の繭は約2.3デニールとかなり細い。細い糸は、光沢が出るし染まりやすく発色もいい。だけど細いということは、通常の糸よりも切れやすいということ。だから繰糸速度を通常の7割以下に設定して、ゆっくりと巻きとるようにしています」と話す。

■三煌を始め、難易度の高い糸作りを手掛け続ける

もちろん糸を巻きとるスピードが速いほうが、生糸を早く仕上げることが出来る。しかし生産効率よりも品質。「回転数を落とすことで糸の繊度、汚れ、節がないかの見落としがなくなる。相当な時間と手間をかけて糸を作っているからこそ、製品になった時に大きな差が出るのは当然なんですよ」と高村氏。
機械への工夫はもちろんだが、工場には糸作り20年や30年といった熟練工員ばかり。だから三煌のような難易度の高い糸作りを安心して任せることが出来るのだ。
高村氏は、「工場のスタッフはね、みんな家族みたいなものです。蚕糸業自体は最盛期の1割になってしまったけれども、要望がある限りは続けていく。そして三煌を始め、常に難易度の高い国産の生糸作りに挑戦していきたい」と笑う。

■優雅な光沢、しなやかな質感、美しい発色、それが純国産絹の魅力

10年の歳月をかけた蚕の品種改良からはじまり、専門の飼育会社と養蚕農家で繭になるまで大切に飼育されて、そして特別仕様の機械と熟練工員がつきっきりで製糸する。時間と人の手を掛けて、ゆっくりゆっくりと作られる三煌。そんな糸を使って丹後・五泉で織られる着物は、上品で優雅な光沢、しなやかな質感、美しい染め上がりが特徴だ。生産に関わる人の想いが込められた着物は、多くの着物愛好家から注目されている。
の絹文化を次世代につなぐために、着る人はもちろん作り手にも煌めきを与える三煌であるために、国内産絹市場の再興を目指して糸づくりの試行錯誤は続いていく。今日も明日も。

日本橋三越本店で開催される『純国産 宝絹展』(10月15日~10月21日)では、着物、帯、ネクタイ、ショール、など純国産の絹で作られた逸品が勢揃い。日本の宝ともいうべき純国産絹の魅力をご覧あれ。

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森有貴子
  • 碓氷製糸農業共同組合は、その前身である撚糸・精錬所(生糸をよりあわせてタンパク質を取り除き絹糸にする)として昭和10年にスタート。昭和34年に製糸工場となる
  • 煮熟した繭は、まず高温の湯の中で索緒箒(さくちょぼうき)によって表面を軽くこすって糸口を引き出される
  • 黄色の繭はぐんま黄金という蚕の品種。光沢のある黄色い生糸ができあがる
  • 繰糸機に運ばれた繭は、目的の太さになるように何本かの糸をより合わせて巻きとられていく。繰糸期の動きに、熟練工員が目を配る
  • 繭一つから1000~1500メートルの長さの糸が揃う
  • 小枠に巻き取られた糸は、揚げ返し機で大枠への巻き取っていく。そして綛(かせ)と呼ばれるひとつの束にする
  • 20綛を1括(かつ)と呼び、6セットにして出荷する
  • 出荷される生糸の様子
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