――日本のアートやカルチャーに興味を持ったのはなぜですか。

きっかけは写真や建築だったと思います。ミニマルで、クリーンで、前衛的で、反ロマンティックな部分を見出し、魅かれました。それは『MOTHER』を貫く美学になっています。イギリスで生まれた私にとって日本は、今までに見たことがないユニークで神秘的なカルチャーに思え、好奇心をかき立てられました。5年前、日本を初めて訪れて、各地を回ったんです。長崎の軍艦島や阿蘇山、飛騨高山などです。イギリスとは違い、火山や地震があって変化に富んだ風土に魅了されました。

もともと『MOTHER』はロンドンと東京のクロスカルチャープラットフォームとして計画しました。今でもコンテンツの50%は日本に関するものです。ヨーロッパのクリエーターはみな日本を始め、アジアが持つ独自のカルチャーに注目していて、移住する友人達もたくさんいます。

――日本を含め、世界中のアーティストが参加していますが、実際、どのように製作しているのでしょう。

まずテーマを決めて、依頼したいアーティストをピックアップし、企画を考えます。その次にファッションブランドがコレクションをつくる時に製作するムードボードのようなビジュアルソースをつくって、アーティスト達と共有します。そのビジュアルを読み解いてもらい、彼らに提案してもらう。そうしてお互いにビジュアルを交換しながら、雑誌をつくっていきます。

『MOTHER』はビジュアル先行の雑誌です。写真、建築、ファッション、ダンスなど、扱う分野は違っていても、どれも視覚イメージが重要な表現。今は純粋なビジュアルだけでグローバルなコミュニケーションが可能な時代です。インターネットがビジュアルで考えることを促したのです。ビジュアルにかかわる業界の人にとって、言葉は以前程重要ではなくなり、新しいコミュニケーションがとてつもないスピードで開発されているように感じます。私はどこに行っても自分の言いたいことをイメージで伝えられる。そんな時代に仕事ができてハッピーだと思っています。

――今の時代ならではのビジュアルコミュニケーションの具体例はありますか。

実は、今回取材したアメリカ海兵隊の戦闘機パイロットは『MOTHER』の熱烈なファンで、彼の方からコンタクトしてきたのです。スピードと今回のテーマであるEROS/THANATOSの両義性を彼は正に体感していました。ビジュアル先行型の時代には、イメージを見て、何がやりたいのか考えを汲み取り、深いところでつながることができる。もともと雑誌を始める前はブログで発信していました。その世界観に共感してつながるフォロワーも多い。ブログやインスタグラムなどのSNSメディアはこれからもっと充実させていきたいと考えています。
（了）

卓越したビジュアル感覚を持つケイトが選ぶアーティストやトピックスは、美しく、過激で、孤独。そのパーソナルであるがゆえに濃密な美意識に反応する人が世界中にいて、インターネット上のSNSなどを介してつながる。ビジュアルによるネットワークが形成されるという現象に、インターネット時代ならではのイメージの優位性を感じた。その彼女が未知のものとして、日本のクリエーションに注目しているということに、グローバル化の中の日本の特異さと、可能性がある。

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