『MOTHER』1/2--1000部限定の美しく、孤独な退廃的雑誌【INTERVIEW】

2014.07.11

先鋭的なビジュアル表現かつ根源的なテーマで発信する『マザー(MOTHER)』マガジン。ロンドンを拠点にする写真家、ケイト・フレンド(Kate Friend)により2012年に創刊されたインディペンデント・ファッションカルチャーマガジンだ。パリセレクトショップコレット」をはじめ、東京の「代官山 蔦屋書店」などで取り扱いがある。

特徴的なのは、日アートやカルチャーをメインコンテンツとして扱っていること。高木由利子代といった日本人写真家による撮り下ろしストーリーの他、大御所の奈良原一高、中平卓馬から新進の山内悠までの日本の前衛的な写真表現、丹下健三や安藤忠雄の建築などをフィーチャーし、一貫した美意識と日本文化への関心の高さがうかがえる。その3号目にあたる「EROS/THANATOS(生と死)」が5月28日にリリースされ、編集長のケイトが来日。製作の背景と日本文化を取り上げる理由について聞いた。

――まず、最新号の内容について教えてください。

毎号テーマを決め、それに沿った編集内容にしています。今回は、EROS/THANATOSという、相反するようでいて、実は近しいようにも思える生と死への衝動について特集しました。私自身関心があって、最近の多くの決断の背後にある意識です。例えば、猛スピードで車を運転している時、傍目には死に向かっているようですが、意識は覚醒し、生の充足と静けさを感じている。そうした本能に敏感で自覚的な人達を取材しました。

写真家・中平卓馬の70年代の作品、モデル福島リラを花代が撮影したファッションフォトストーリー、カリフォルニアで「チャボエンジニアリング」というカリスマ的カスタムバイクブランドを主催する木村信也、ダムタイプのアートパフォーマンス、「アンダーカバーUNDERCOVER)」デザイナー高橋盾インタビューなどで構成されています。

――創刊号が“GENESIS(創世記、起源)”、2号目が“TRANSCENDENCE(超越)”ですが、毎号のテーマはどのように決めているのでしょうか。

特集を考える時に、私が何を感じているか、ですね。それぞれのテーマは社会や経済の情勢、私自身の内面を反映したものになっています。気をつけているのは、抽象的なテーマを選ぶこと、明確なイメージが思い浮かぶものは避けること。「パンク」や「ロマンティック」など使い古されたコンセプトは選びません。その方が、参加するクリエーターも自由な表現ができるから。

――雑誌を創刊した理由を教えてください。

既存メディアがコマーシャルになりすぎ、自分が仕事をしたいと思う媒体がないことが原因です。私はコマーシャルでありながらも、クリエーティブで実験的なプラットフォームをつくりたいと思いました。ロンドンでは、インディペンデントメディアの動きが盛んになっています。写真家のニック・ナイトによるファッションを表現するインターネットプラットフォームSHOW studioもその一つです。でも、私は雑誌という紙媒体にこだわりました。『MOTHER』はわずか1,000部しか刷りません。印刷や紙の質など、ものとしてのクオリティーにこだわりを持ち、美しいオブジェとしてデザインしています。紙という素材が珍しくなるほど、印刷物は、魅力的で、退廃的な存在になると思うのです。

――あまりアドページを入れてませんが、広告に対して積極的ではないのでしょうか。

いいえ、むしろ広告媒体にもなりうるプラットフォームだと考えています。ファッションブランドはコマーシャルになりすぎない、新しい広告手法を探しているように思います。『MOTHER』はブランド広告ではなく、編集ページをファッションブランドがスポンサードするアドバトリアルの方法を模索しているのです。

2/2に続く。
佐藤千紗
  • 『MOTHER』3号花代が撮り下ろした福島リラのファッションストーリー
  • 『MOTHER』3号表紙
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  • 『MOTHER』3号。ダムタイプのアートパフォーマンス
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