テーラー鈴木健次郎3/3--エレガントこそテーラーの勝利【INTERVIEW】

2014.03.23

――クリエーションについて、一番こだわっている部分はどこでしょうか。

納品した後に空気感が出ているかどうかです。縫いが良いかどうかではなく、身体と服の間に空気の層を作りながらフィットしていないとダメなのです。フィット感を追求しないのであれば、安いブランドで済ませられます。自分の服を顧客が着た時、空気の層で包み込みつつエレガントに見せたいと思っています。そんな中でも自分にとって得意な体型というのがあって、なで肩でお腹が出ていない人はやりやすいですね。身長160cmの人には着丈を長くして貫禄が出るように工夫します。

例えば、お腹が出ている人が既製品を選ぶと、お腹周りに合わせるので肩が広がってしまいますが、その部分を重点的にカバーします。他にも背の人や肩が落ちている人など、様々な体型の人がいますが、そういった来良しとされない身体的ディテールを包む役目がテーラーなのです。既成服は人が着てきれいに見えれば完成となります。でもテーラーはそれプラス、体型に合わせるという作業が必要です。人の体型はそれぞれ異なるわけで、毎回違うやり方をしなければならない。自分達がルールを破っていかないとダメということに気付きました。そして、その難しさを理解できるようになってきましたね。

――私からするとテーラーと、いわゆるファッションデザイナーとの違いについて気になる所ですが。

意識しているのは、完成したものが鈴木健次郎の服だと一目で分かるようなものであってはならない、ということです。自分の服を着ている人が「どうしてかわからないけれど、この人はとてもエレガントだ」と周囲に思ってもらえるようなものを作るのが目標です。

スマルトではモロッコの王様が毎年400着オーダーしていました。彼の場合は、王族なので色々な人と会う機会があり、そういった人がどこのブランドかわかるようなモードな服装をしているのは良しとされません。服そのものよりも、着る人がエレガントに見えないとダメなのです。ですから、テーラーの服を着ている人が、周りの人達からエレガントだと認識されているのであれば、それこそがテーラーの勝利といえるのです。そんなところが、テーラーの服とモードの違いだと思っています。

――メンズブランドからデザイナーのオファーがあったら受けますか?

断りますね。自分にはできない。デザイナーの仕事は特別で、今のファッションは特にビジネスに傾いていますが、もちろんその中でゼロからのクリエーションを作り上げられる人もいます。でもそれを自分はできないと思います。今までにあったものに則って、着た人がエレガントに見えるかどうか、が重要だと思っているので。

ただ古いものにこだわっているわけではありません。年代ごとの傾向は勉強しましたが、特定の好きな年代やスタイルに拘泥することはないですね。例えば1910年代のものだったら、触れるだけでわかるくらいにはなりました。日本のテーラーにかかわる人たちの多くは、そこにこだわりを持っているようですが、自分は違いますね。顧客は決して古いものを欲しているのではなく、2014年の今の服を求めています。もちろん、古いものについての知識がないと、新しい服を作ることができないという部分もありますが、それにとらわれていると新しいものを生み出せないと思うのです。

――今後の予定や展望などについて教えてください。

受注会のために定期的に日本へ行っていて、現在の注文数の6割がフランスです。今後はもっとフランスでのオーダー数を増やしたいと思っています。また、これからフランス人の職人を入れて、数をこなせるような体勢に整えたいですね。人を増やして自分の世界観を保ちながら拡大していきたいと思っています。今、スマルトの職人に声を掛けているところです。

ただ、クオリティーだけは保たなければと考えています。すべてを他人に任せず、自分自身、つまり職人の手作業を入れないといけない。そうして作ったものには濃密な空気感が出ます。粒子が細かくなるというか、一体感や光っている感じが完成品から放たれるというか。職人が懸命に作ったものには、雰囲気に現れるものなのです。そういった空気感を大事にするのであれば、外注ではなく、自分が直接雇った人にやってもらうしかない。人を増やせば生産数は上がりますが、学んできた環境が違ってしまっていてはどうしてもクオリティーが下がってしまう。そうならないようにしないといけないと思っています。

またパリだけでなく、広い地域からの顧客を開拓したいと思っています。3日前にはジュネーブからオーダーに来た方がいましたし、明後日はルクセンブルグから来る予定で、徐々にですが広がりを見せています。またサヴィルローでの受注会の企画も持ち上がっていて、実現したら面白いと思っています。


鈴木健次郎は東京都出身。専門学校を卒業後、アパレルメーカーに勤務。2003年に渡仏。パタンナー養成校であるA.I.C.Pを首席で卒業し、国家資格を取得。現地テーラーハウス、アルニスで研修後、カンプス・ドゥ・ルカで縫製職人として研鑽を積み、07年よりフランチェスコ・スマルトに勤務。09年には日本人初のチーフカッター(採寸、パターン、裁断など、すべての工程を監督)に就任。11年に独立を決意し、13年に「KENJIRO SUZUKI sur mesure PARIS」を設立した。
Tomoaki Shimizu
  • 大きい裁ち鋏で毛芯を切る
  • 着用する服は自身が仕立てたもの
  • 表地を毛芯に置き、パターンを作っていく
  • 毛芯に直接パターンを書き込む
  • 芯を表地に据えた状態。この仕立てがスリムに見えつつもゆとりのあるシルエットを生む
  • アイロンは重さが重要とのこと
  • サファリジャケットも自作
ページトップへ