【PRESSブログ】ソフィ・カルという「虚構」に取り憑かれて

Voice Voice

ハラ・ミュージアム・アークでの『局限性激痛』の展示。カルが電話で恋人に振られた際に泊っていたホテルの部屋を再現
  • ハラ・ミュージアム・アークでの『局限性激痛』の展示。カルが電話で恋人に振られた際に泊っていたホテルの部屋を再現
  • 原美術館での『最後に見たもの』
  • 原美術館での『海を見る人』
  • 『局限性激痛』のカウントダウン
  • 『局限性激痛』のカウントダウン
  • 『局限性激痛』のカウントダウン
  • 『局限性激痛』のカウントアップ
  • 『局限性激痛』のカウントアップ
今、東京近郊の三つの展覧会で仏現代アーティスト、ソフィ・カル(Sophie Calle)の作品を見ることができます。カルは曖昧で極端な人間の記憶や認識と、一方で複雑な現実がズレていることを、皮肉とノスタルジアを持って指摘する作家です。

果たして我々は現実をありのままに客観的に見つめることができるのか?或いは複雑な事象に極端で身勝手なストーリー、つまり「虚構」を作り上げることでしか、現実を認識することができないのか?彼女の作品からは、そんな問いを投げ掛けられているように感じるのです。

ドラマチックな出来事を要として人間の感情や記憶が変化していく過程を、彼女は短い言葉や写真、映像で見せます。曖昧な記憶や思い込みと、現実のズレから生じる、「虚構」を表現した作品達はとてもパーソナルで生々しく、重く感じることもありますが、私達が現実と向き合う上で、避けては通れない重要なことを指摘しているのではないでしょうか。

まずは、品川の原美術館での個展「ソフィ・カル−最後のとき/最初のとき」。ここでは、彼女の写真とテキストで構成された作品『最後に見たもの』と映像作品『海を見る人』が展示されています。これら二つの作品は昨年の9月に、パリのギャラリー・ペロタンでも出展されました。

『最後に見たもの』は盲人が視力を失う直前に見たイメージを写真で復元し、文字に起こして盲人本人の写真と一緒に並べた作品です。盲人が「語る」そのドラマチックなストーリーによったイメージは、曖昧な輪郭を持つ「虚構」そのものであることに気づかされます。

『海を見る人』はトルコ内陸部出身の海を見たことがない人達に、初めて海を見せ、その表情を映像でとらえた作品です。初めて海を見る人達は、時には涙を流し、言葉に出来ない感情を表します。何処に居住しようと、海の画像や映像を見たことがない人はいないはずです。にも関わらず、実際に初めて海を目の前にするとその壮大さに圧倒されています。私達が普段処理している情報、すなわち「虚構」、を超えて現実はずっと複雑で微妙なものだということなのでしょう。

次に、同美術館と系列である群馬のハラ・ミュージアム・アーク「春の展示」でも作品が出展されています。1999年の『局限性激痛』。これはカルが自身の失恋を題材に、恋人に振られるまでの約3ヶ月を「カウントダウン」、振られてからの回復の約3ヶ月を「カウントアップ」とし、一連の出来事を写真と文字で表現した作品です。「カウントダウン」ではイノセントな恋人とのやりとりが破局へと向かっていく悲劇的な様子を、写真と2人の間でやりとりされた手紙によってドキュメントしています。

「カウントアップ」では破局後の恋人への自身の気持ちの変化をテキストにし、他の知人や友人の痛みのストーリーと交互に配置することで、破局による堪え難い苦痛から徐々に解放される様子がつづられています。

つまり『局限性激痛』は、感情の変化によって繰り返し自身の記憶が書き変えられ、過去の現実がねじ曲げられていくプロセスの描写です。ここでは様々に変化するストーリー、つまり「虚構」、を作り上げることによってのみ救われる人間の特性が奇麗に表現されています。

最後は、六本木・森美術館で開催中の「LOVE展:アートにみる愛のかたち」で展示されている『どうか元気で』という2007年のヴェネチア・ビエンナーレフランス館で発表された作品です。

カルが振られた際に恋人から受け取ったeメールを、様々な女性に解釈してもらい、自身では理解できない別れの意味を追求しようと試みている作品です。これも写真と文字の構成。人によって別れの解釈、つまり「虚構」、が大きく異なっているのが特徴です。

カルの作品は、自身と他人のドラマを描写することに加えて、描写されていることの真偽を暗に問うという意味で2重にジャーナリスティックです。女性が自身を理解するために行う表現、という枠を大きく超えて、人間の「虚構」を作り出すメカニズムを露呈させ、実に多くの問い掛けがなされています。

ジャーナリスティックに「虚構」を表現するソフィ・カルにとりつかれてみてはいかがでしょうか。原美術館は6月30日まで。ハラ・ミュージアム・アークは6月26日まで。森美術館は9月1日までです。
《Maya Junqueira Shiboh》
  • ハラ・ミュージアム・アークでの『局限性激痛』の展示。カルが電話で恋人に振られた際に泊っていたホテルの部屋を再現
  • 原美術館での『最後に見たもの』
  • 原美術館での『海を見る人』
  • 『局限性激痛』のカウントダウン
  • 『局限性激痛』のカウントダウン
  • 『局限性激痛』のカウントダウン
  • 『局限性激痛』のカウントアップ
  • 『局限性激痛』のカウントアップ
  • 『局限性激痛』のカウントアップ

FEATURED

特集

page top