【INTERVIEW】「気持ちは取引先すべてが直営店。僕は多分、世界一幸せなデザイナー」----マスターマインド・ジャパン本間正章vol.4/4

2013.03.12

――最後に、マスターマインドを休止しようと思った理由をお聞かせください。

ファッション業界の知識も乏しくコネクションがなくても、お客さまがいたから、マスターマインドは活動を続けてこられた。だからこそ、10周年を迎えられるとわかった時に、お客さまにどんな恩返しができるだろうか、と。

そこで頭に浮かんだのは、ブランドの価値を下げず、買ったことを後悔させないブランドであり続けること。どんなに素晴らしいブランドでも、半永久的に人気があるわけではないし、それを維持しようと思うと、どこかで必ず無理が出る。そういう意味では、マスターマインドの10年先が、僕には見えなかった。だったら、いいブランドだと認識していただけているうちに幕を下ろすのがいいのではないかと。ただ、残り1年では取り引き先、工場さんや生地屋さんにも申し訳ない。他のデザイナーの10年、20年分を凝縮して、休まずやれるとなると、キリのいいところで5年かなと。

“mastermind”はアルファベットでちょうど10文字。5年で10シーズンだから丁度いい。そこで、11年目の1シーズン目から、それぞれのアルファベットで始まるシーズンタイトルをつけるようにした。“majestic” から始まって、お客さまが幸せになれますようにという想いを込めて、すべて末広がりの”八“文字で。その時から、最後のシーズンの“dreaming”は既に決めていた。5年前も今も、当に夢のようだなという気持ちは同じ。実はこれ、すごく長い、壮大な夢なんじゃないかな、なんて思うこともある。

――“マスターマインド”という言葉はとても良いネーミングだと思っていました。このブランド名にしたのは何故ですか?

ブランド名を考える時に、僕の“Masaaki”という名前をアルファベットに置き換えて、スペルが重なる限りの単語を探した。そして“mastermind”という単語に出合った時に、両極端な意味を持つ単語だなと。例えば、テロリストのリーダーのことを“マスターマインド(黒幕)”と呼ぶ英字新聞もあれば、最高級の使い方で、「一つの才能に長けた人」に使うこともある。この二面性が、一番自分っぽいかなと思った。別に自分が一つの才能に長けていると思っていたわけではない。僕は昔から周囲の先輩方に「お前は絶対成功する」と言われて、かわいがってもらっていた。彼らの言葉に応えたいという気持ちが大きかった。自分はマスターマインドではないけれど、マスターマインドになれるように、名前負けしないように頑張ろう、と思ってきた。

それから、父親が美容師で、僕が小さい時からみんなにマスターと呼ばれていた。本当は僕に後を継いで欲しかったと思う。だから長男として、マスターのマインドはちゃんと受け継いでいる、という裏の意味が実はある。そうした事柄がすべて重なって、“マスターマインド”とした。そうでなければ、“マスター”で始まるいい単語は他にもあるので。マスターピース(傑作)とか。

――とても人気が出たのに直営店を出しませんでしたね。

実は立ち上げ当初に一度直営店を出したことがある。その時の、全く人が来ないというトラウマが原因なのかも。それから、マスターマインドは「オープンプライス」というシステム(卸値を決め、店頭での小売り価格はそれぞれの小売店が決定する)にしているが、直営店を持つと上代が自動的に決まってしまうので、それを避けたいというのも理由の一つ。何より、伊勢丹ビームス、阪急、ゾゾタウンを始め、多くのそうそうたる取り引き先が、我々のために素晴らしいプロジェクトにリスクを背負って取り組んでくれている。あえて僕が「ブランドの世界観を見せる」などと格好をつけて直営店を出す必要もないと思った。自分で言うのも何だが、これだけ高い商品だと在庫を持つのも嫌だし、365日売り上げの心配をするのも避けたいし(笑)。究極の言い方をすれば、取り引き先すべてが直営店舗だと思っている。

――若手デザイナーやバイヤーには、本間さんに色々教えられたという人が結構いるようですよ。

何か偉そうなこと言ったかな(笑)。僕達は、ヨウジヤマモトコム デ ギャルソンイッセイミヤケという偉大な先輩たちが世界を舞台に築いてきた王道と、それとは相反する裏原の世界、日本発信で“買いたければ日本に来い”という、その両方を同時に垣間見ることができた。ただ、自分はそのどちらでもなく、丁度その中間にいるというか。世界に認められるための方法論は、その二つだけじゃない。どれを選ぶかは自由だけど、方法論はたくさんあった方がいいと思う。マスターマインドとして、王道でも裏原でもない、三つ目の道を後輩たちへ向けて作れたと感じている。

――それが今の成功につながったのでしょうね。

成功かどうかはわからないが、僕は多分、世界一幸せなデザイナーじゃないかなと思う。だから本当にもし、明日事故にあったり、いきなり心臓が苦しくなって倒れても、仕事としては全く悔いはないですね。いないと思うな、こんな幸せなデザイナー。(了)
三浦達矢
  • 本間正章氏
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